タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2022/04/03


 束の間の休息で宿屋の窓を開けてぼんやり街並みを見下ろしていた。風通しの良い立地なのか、のどかな島ののどかな会話がほどよく聞こえて癒される。まあたぶん、夜、いや、夕方にはきっとルフィか誰かが問題を起こして逃げ回る羽目になるだろうから今だけはのんびりゆったり平穏な日常に触れて頬を緩めていたい。
 ふと穏やかな会話だらけだった空間に興奮と期待が入り混じった楽しげな声が耳をくすぐる。ひそひそと二人の女の人が、声掛けようか、と相談しているのが私の耳に入って思わず視線をそちらへ向ければ、同盟相手のキャプテン、ローがいて目を見開いた。エッすごいな。まさかロー相手に逆ナンしようとしてるの? エッ。本気で? 度胸が凄すぎる。だって理由を知らなければ世間一般的には怖い印象でしかない刺青が体中に彫ってあって、長い刀を抱えていて、人相もとても優しそうとは言えず隈がひどい、そもそもが「死の外科医」だなんて通り名の海賊相手だよ? 何度か言葉を交わして根は良い人だとわかっているウソップとチョッパーでさえ不意にローに背後に立たれると全力で肩を揺らしてビビり肝を冷やす相手なのに? エッ、すごいな。応援したくなってきた。がんばれ。その勇気と度胸があれば何かしらの世界を獲れる。好き。なんて、逆ナン対象じゃない私がその女の人に惚れてしまいそうになる程勇敢な行動をそっと見守っていた。のに、ブンッ、と鈍い音と青い膜が周囲に張り巡らされて一瞬で女の人の視線の先にいたはずのローがいなくなってしまった。アレッ、と思わず私すら声に出しそうになって慌てて手で口を押さえる。女の人たちは目を白黒させている。ということはローの能力を知らないということで、海賊だということも知らずにあの見た目のローに突撃しようとした女の人たちの勇気に改めて感服した。すごい。好き。私が逆ナンされたい。好き。というか勧誘したい。ルフィも許してくれると思う。だって勇気がある。
 なんていうのを今日、五回は繰り返して見た。私は今日だけで五回恋をしたしスカウトする勇気を出せずにただただ情けなく野次馬をしていた。いや逆ナンされすぎじゃない? 未遂だけれど。未遂だけれども。女の人側の「いく?」「いこう」「がんばって」の会話を聞いてるわけで自意識過剰の勘違いなわけじゃないし、ローが意味もなく体力を少し消耗するらしい能力を何度も使うわけがないから逆ナンから逃げているのはわかるけども。どう断っても角は立つだろうし、騒ぎを起こさない最小限の行動はウチのキャプテンにも見習ってほしい。
 逆ナンの合間にウチのキャプテンとローが鉢合わせそうになった瞬間もあった。げ、と隠さず顔に出したローが一瞬で消えて不思議に首を傾げる間もなくルフィが楽しそうに一瞬で道を駆け抜けていってその答え合わせに思わず声を出して笑ってしまった。まあまだ今日のところは問題を起こしていなかったようだけど、それも時間の問題だし巻き込まれる前に逃げたのは懸命だと思う。
 何かしらの目的で手を組む間は仕方なく一緒にいるだけで、いつも騒ぎを起こすメンバーに怒鳴り散らしていたし、こうやってそっと知られぬように逃げて航海ルートが重なっていたのを向こうは知っていてこちらは知らない、だなんてのがきっと幾度もあったんだろう。私たち(主にルフィ)に見つかる前にブンッと逃げる。さっきみたいなことが一体何回あったんだろ、と小さく笑えばまたローの姿が見える。何度もナンパ未遂をされていることと思いがけず麦わらの一味と航海ルートが被ってしまっていたせいで用事が思うように進まないローが少しだけ可哀想だけど、気を張りながらキョロキョロ視線を動かして周りを警戒している姿はなんだか可愛らしい。この島の人通りの多い時間帯は過ぎ去ったのか、ようやくホッとした風に息を吐き出したローが空を見上げようとしたのか視線を上にあげて、あ、と口を開けてしまう。せっかくほどけた眉間の皺が、また深まってしまったローと目が合う。今度は私が逃げられちゃうのか。いや私はローを逆ナンするつもりはないし、ルフィにローを差し出すこともないけど、それがわからないローはやっぱり眉を顰めたまま青い膜を張って、苦笑がこぼれた。貴重な体力を消耗させてごめん。心の中でそう謝って、瞬いた。

「お前か」

 ブンッ、と鈍い音と共に落ちた声に驚いて息が詰まる。声をした方へ振り返れば部屋にローが、居た。逃げるんじゃなくて、近付いてきた。

「ど、どうして」
「あ? ……なんだ、いつもの騒がしいほどの元気さはどうした、怪我でもしてるのか」

 尋ねても訳がわからないと言わんばかりに首を傾げられて、戸惑いまごつく私の心配までしてくれる。

「どうして、逃げないの?」
「……は?」

 だって、自分に視線を感じるだけで逃げていた。ルフィと会って面倒ごとに巻き込まれるのを厭うて視界に入っただけで逃げた。私だって、その面倒ごとに巻き込む麦わらの一味のクルーなのに。

「どうして?」
「だから、何がだ。なんだ? 本当に具合でも悪いのか」

 診てやろうか、と尚も一歩私に近寄ってくるローの考えていることが私にはわからない。