タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
← →
2025/07/21 スモーカー
逃げ出す道すら崩れ落ちて・長い睫毛に一滴・真綿より両手で
※夢主が暴力を振るいます
▼
好いた女が絡まれてるのを見つけて眉を顰めて、男が乱暴に手首を掴んだ瞬間頭で考えるよりも先に体が動いた。煙で間に割り込んで男の手首を捻り上げた瞬間、呻く男の声が二つ重なって首を傾げる。二つ? おれが手首を捻り上げているせいで間抜けに悲鳴をあげる男の声と、物凄く近場で一瞬聞こえたウッという音。聞き覚えのある声は自分の喉から出ていたことに気付いて瞬く。
「やだっ、スモーカーくん殴っちゃったごめんなさい!」
背後から答えが聞こえて状況を把握して思わずニヤつきそうになった表情筋を慌てて引き締める。表情筋と一緒に手にも力が入ったのか再び呻き声が聞こえて舌打ちをしながら通常に戻す。ぐいぐいと自らの腕を引っ張って逃げようとする男を睨みつけながら、待ってくれよスモヤンとどたばた追いかけてきた部下どもにそれを引き渡した。おれよりはそいつらの方がまだ丁寧に扱って貰えるだろう。
「他にも被害者がいねェか絞り上げて確認しといてくれ」
「任せろ!」
「スモヤンはそのままデートしてきてもいいぜ!」
「うるせェとっとと行け!」
余計な一言二言が口々に放たれて叱責して、ため息を吐きながらようやく被害者に向き直ることができた。瞬間、涙が今にも溢れそうな瞳と視線が交わってぎょっとする。
「お、おい、大丈夫か、怖かったか? そらそうだ、怖かったよな、手首痛めてねェか?」
普段荒っぽいクズどもばかりを相手にしているおれと違って、平和に過ごしている人間にとってあの程度の小物でも計り知れないほどの恐怖を感じるに違いない。それなのに、背中に感じた衝撃を微笑ましく感じてこいつの心情に寄り添えない馬鹿な男だったことを後悔したってもう遅い。手首を乱暴に掴まれて、おれが間に入る前に即座に拳を振り上げる勇気は、一生出す必要のなかったものだった。おれの馬鹿みたいに硬い背中を殴って手を痛めてやしないかと、慌てて確認のために手を取ろうとして怖気付く。傷付けるつもりはなくても粗忽な男の手はこの肌を傷付けてしまうかもしれない。
「ご、ごめんなさい、」
ぼろ、と大きな涙の雫と言葉がほぼ同時に落とされて固まる。なんでお前が謝るんだ。
「謝るのはおれだろ、悪かった、怖かったな、お前はよく頑張った」
「なん、なんで、ほめるの、わたし、ひどいことしたのに」
ひぐ、と喉を鳴らして頬が涙の洪水に溢れておれの喉も引き攣りそうになる。くそ、なんでこういう時にたしぎやヒナがいねェ。
「お前は何もしてないだろ、被害者だ。自分のことを意味もなく責めるのはやめろ」
だって、だって、といつもより幼く言い募る姿を見下ろすことしかできない。何か思うことがあるなら教えてくれると助かる。口下手なせいで、お前のその心を慰める未来が予想できないがそれでも何を不安に思っているのかとじっと言葉を待つ。
「す、すもーかーくん、なぐっちゃった、たすけにきてくれたのに」
「、何言ってんだ、……助けに来るのがおせェんだってもっと殴ってもいいくらいだ、そんなことで泣くな」
おそくない、の反論の言葉が骨に直接響いたのは目の前の女がおれの懐に飛び込んで顔を引っ付けて泣いているからで固まる。抱き付かれている、? ごめんね、と再び聞こえた謝罪と共に背中を撫でられる感触。抱きつくのが目的じゃなく背中を摩るのが目的なのかと気付く。それでも普段ならきっとこんな距離感にならないはずで、やっぱり恐怖で普段しないことをしてしまっている。好きな女に急に抱き付かれて心臓の音がありえないほど騒ぐからただでさえ口下手なのに更に何も言えない。普段しないことまでしてしまうほど怖い目にあったお前を慰めたいのに。
「なぐっちゃって、ごめんなさい、た、たすけてくれて、ありがとう、」
「だ、から、謝る必要も、感謝する必要もねェんだよ、お前は何も悪くないし、おれはああいうのを捕まえるのが仕事だ」
← →