タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
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2022/04/05
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明日の仕込みやらなにやらでわりと遅い時間まで船のみんなのために忙しなく動いてくれているサンジくんがダイニングでじっと座っているのが丸窓から見えた。動いていないサンジくんというのがなんだか物珍しくてぼんやりその後ろ姿を見つめようとしても気配に敏いサンジくんが振り返ってしまうから思わず苦笑する。そんな私とは対照的にものすごく嬉しそうに微笑んでくれるからそっとダイニングの扉を開いてサンジくんへ近寄った。自分で近寄っておいて近寄れた、なんて思ってしまう。だってサンジくんは常にくねくねと私やナミちゃんやロビンちゃんに瞬時に近付いてきて、女の人が動く隙が見つけられないから。そんなサンジくんが不思議で、サンジくんの手元を覗き込む。
「邪魔してごめんね、何してたの?」
「つめきり……えっと、何か飲む?」
「ううん、そのまま続けて」
「え、でも」
言葉通りティッシュの上に爪の残骸と爪切り片手に戸惑うサンジくんの横に座って首を振る。納得いっていないように視線を彷徨わせていたけど結局女の人に逆らえないサンジくんはもにゅもにゅと口を変な風に動かして、ぱちん、と爪を切ってくれた。ちらちら私に視線向けてくれるのは可愛いけど危ないからちゃんと爪見て。
ぱちん、ぱちん、と何度か続けばサンジくんも慣れたのか爪を切ることに集中してくれて覗き見が捗る。ティッシュの上に散らばる爪はそれぞれが短くてサンジくんがこまめに爪の手入れをしていることがわかる。ぱちん、とまた音がして全部の爪が均等の長さになったことを確認してから口を開いた。
「サンジくんの爪って綺麗だよね」
「綺麗ってのはレディの桜色のような爪のことを言うんだよぉ〜」
爪を切っていた時の真剣な表情は一瞬で消え失せてしまって笑う。うん、まあこれがサンジくんなんだけど。爪切りを机の上に置いて、てっきりそれで終わるのかと思ったら今度は細長い爪用のヤスリを取り出して瞬く。なるほどこういうたゆまぬ努力がサンジくんの爪を綺麗に飾っているのか。サンジくんのだらしなく緩んだ表情がまた締まって、しゃりしゃりと爪が削れる音がする。一本、二本、五本の爪が綺麗に整えられたのを見て、うずうずとした気持ちが抑えきれなくなった。
「ねえ」
「やっぱり何か飲み物淹れようか」
「ううん。ねえ、そっちの手の仕上げ、私がしてもいい?」
「へっ?」
「サンジくんのコックさんとしてお仕事の一環なのはわかってるんだけど、その、やってみたいな、って」
目を丸くして私を見つめるサンジくんにどんどん言葉尻がか細くなる。だって言いながらやっぱり大事なサンジくんの手をド素人でしかない私がやりたいだなんて図々しいにも程があるな、って思ってしまった。それにサンジくんは女の人に頼まれたら絶対に断らないし、ここは私がちゃんとサンジくんの手を大事にして我慢して口を閉じておくべきだった。ごめん、やっぱり聞かなかったことにして、そう言おうと思って息を吸った私より先にサンジくんのきらきらした目が私を射抜く。
「光栄だなァ! いいの?! すげェうれしい!」
「え、と、でもその、」
すごくきらきらした目で私を見つめて、挙句いつの間にかヤスリが私の手元に収まっていた。サンジくんが仕上げていない方の手を私に差し出してうきうき待ってくれているから覚悟を決める。軽々しく言ってしまったけど、この指は、この手は、大事なサンジくんの大事な手。傷付けないように、期待を裏切らないように、そっとサンジくんの指を持ち上げた。やすりを爪に押し当てて、引く。しゃり、しゃり、とゆっくり爪を整える。サンジくんのしていた時のようにスムーズな音を奏でず、ゆっくり奏でられる音にどぎまぎしながらさっきじっと観察して覚えたサンジくんのやり方で爪の形を整える。ようやく一本を終えてサンジくんを見上げればとろとろに蕩けた目で私を見下ろしていて思わず慌ててまた視線を爪に戻してしまった。
「えと、あの、……こんな感じで大丈夫?」
「うん、上手だよ、ありがとう」
せっかく目を逸らしたのに甘い声が降ってきて逃げられない。緊張する。次の爪にまたやすりを押しつけて、しゃり、しゃり、と音を鳴らす。さっき、私がサンジくんを見つめていた時、声をかけていた時、サンジくんもこんな気持ちになっていたんだろうか。ばくばくとうるさい心臓の音のせいで、しゃり、しゃり、と爪を整える音が聞こえにくい。
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