タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2025/11/07 ゾロ
声帯を震わす激しい感情・闇に紛れて・解けないように絡める指


 ぐい、と急に腰を抱き寄せられて硬い壁にぶつかってよろめく。本当の壁じゃなくて、ずっと私の隣を歩いていた筋肉が立派なゾロの肉体でびっくりしながらゾロを見上げた。ぴりぴりと警戒してるのが伝わってきて、ぎゅ、とゾロの腹巻きをつまんで身を竦める。こんなに警戒してるゾロ、久々に見た。いつもは強い人を見かけると不敵に口端をあげて喜び勇んで闘いに行くのに、ぎゅ、と私の腰を引き寄せたまま、真一文字に唇を引き締めてまっすぐ前を見つめている。だけどゾロの見る視線の先にはのどかで平和な街並みしか見えなくて、見聞色どころか普通の敵意すらわからない私にとっては見えない恐怖にただただ怯えてゾロに引っ付くだけ。

「ぞ、ぞろ、今日はもう、かえろ?」

 ゾロたちが暴れると平和な島が酷い嵐にでも見舞われたかのような惨状になってしまう。ただでさえそうなのに、ゾロが見たことない警戒の仕方をしてる敵ならもっと酷いことになる。帰ろうよ、と腰に回っているゾロの手を剥がして船に導きたいのにまるで私の体の一部になったかのように全く微動だにしない。何この握力。見えない敵も怖いけど、ゾロのこの力も怖くなってきた。私の腰、へし折られないかな。骨、砕けないかな。見えない敵より今すぐそばにいるゾロの方がちょっと怖くなってきて腰に回った手を剥ぎ取りたいのに全然取れない。

「あ? なんでだよ、お前がおれと出掛けるって言ったんだろ」
「そ、そうだけど、」

 ぐるりと視線が私に向いて目を泳がせる。でも、ゾロがそんなになるほど警戒する敵も、ゾロのこの力の強さも、ちょっと怖い。

「…………なんでおれから逃げようとするんだよ。あいつの方がいいのか」

 あいつ? ゾロの警戒する敵に怯えて私の腰の骨より命そのものを守ろうとゾロに引っ付き直す。

「ど、どの人?」
「知ってどうすんだよ、行くのか」
「な、なんで私が行くの? ゾロが行ってよ」

 ゾロに骨を折られるかも、なんて考えてたことは棚に上げて頼り切る。

「おれが行ってどうすんだよ、目当てはお前だろ」
「?!」

 恐ろしい発言に体を寄せるだけじゃなくてゾロに向き直ってぎゅうっと真正面から抱き付く。怖い。私目当てだったの? なんで? 弱そうだから? 人質? 目を瞑ってゾロの胸元に顔を押し付けてぐるぐる理由を考えながら震える。

「……いや、そりゃ、おれも今までずっと腹立ってたが、そこまでしなくても、」
「こ、こわい、」
「お、おい、どうした、お前いつも平気そうじゃねェか、」
「だっていつもはゾロ目当てじゃない、」
「お、おま、恐ろしいこと言うなよ、おれ目当てなわけあるか」

 噛み合わない会話に恐る恐る顔を上げる。顔を赤くしたり青くしたりしながら私を見下ろすゾロに恐怖も忘れて首を傾げた。

「どうしたんだよ、お前いつもナンパなんか軽くいなしてるだろ、……本当はいつもそんなに怖かったのか?」

 心配そうに頬に手を当てられて言われた言葉に固まる。今ゾロなんて言った? ナンパ? 私たちの命を狙ってる敵じゃなくて、ただのナンパ?

「……私のこと、口説こうとしてる人がいるの?」
「ああ、」

 勘違いに気付いて身体中に火がついたように熱くなる。海賊の敵なんていなかった。いるのは女の敵。恥ずかしくなって訂正も何もできずにゾロの硬い胸板にまた顔を押し付ける。ずっと怯えていたから気付かなかったけど、ゾロの心臓が面白いくらいうるさく跳ねててお揃いなことに思わず笑う。恥ずかしい勘違いをしたけど、ゾロが見たことないほど警戒してたのを知って胸がぎゅっと熱くなる。どんな敵相手にだって不敵に笑うゾロも、私を狙う男を見つけるだけであんなに面白くなさそうに私を抱き寄せてぴりぴりと怒ってくれるんだ。嫉妬なんてしなさそうなゾロが、私を大事に独占しようとしてくれた事実に嬉しさが募る。でもやっぱり馬鹿みたいな勘違いが恥ずかしくて顔を上げられない。それを私が怯えていたと思ってしまっているゾロが優しく背中を撫でて慣れない言葉を紡ぎながらあやしてくれるから、余計に顔を上げたくない。もう少し、甘やかされたくて。