タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2025/11/16 スモーカー
誰も知らない二人だけの秘密・ぬるくなるミルク・愛で地球は救えなくても僕は救えます


 だん、と勢いよく玄関のドアが開いて驚く。がちゃがちゃと鍵が回される音が聞こえたから合鍵を持っているスモーカーくんなのはわかっていたけど、それでも勢いに驚いて飲み物を机の上に置いたあとでよかったな、なんて胸を撫で下ろす。

「自白剤を盛られた」
「えっ、大丈夫?!」
「平気だ」

 体のところどころが煙に溶けながら言われてもとても平気には見えなくて険しい表情でずんずん近付いてくるスモーカーくんの腕を掴んでソファへ誘導する。そっと座らせて額や頬に手を滑らせて体温を測ったって、自白剤なんてものの対処法がわかるわけがなくてただ撫でただけになってしまった。

「お医者さんに見てもらった?」
「ああ、問題なかった」
「問題ないことないでしょ、」
「馬鹿正直になんでも答えちまうだけだ、問題ない」

 確かにいつもより口数は多いけど、それでも心配で溶けた煙にそっと触れる。いつものように煙が私の手を包み隠すのがくすぐったくて思わず笑いそうになったけど慌てて我慢する。体に異常はなさそうでも様子は少しおかしいからそんな状態に微笑ましく思ってる場合じゃない。でも、自白剤を盛られた、なんて聞いたからにはなんでどうしてとただ質問するのも危うい気がして何も聞けなくなる。スモーカーくんくらいの立場なら私に言っちゃいけない海軍の機密事項だってあるはずで、機密事項じゃなくたって言いたくないこともあるはず。スモーカーくんの体の不調の有無だけは確認できたんだからそれで安心しなくちゃ、とスモーカーくんを見上げて瞬いた。ものすごく不機嫌そう。当然だと思う。言いたくないことを勝手に口がこぼしてしまって苛立つのは仕方がない。それでもそんな状況の中私に会いにきてくれたのがほんの少し、……ものすごく嬉しくて浮かれそうになる。それを悟られて嫌われないようにと気を引き締めた私にスモーカーくんが顔をぐいと近付けてくるから首を傾げた。

「どうして何も聞かない」
「え、なんか変なこと聞いちゃって、言っちゃいけないこと言わせちゃだめだと思うから」
「聞け。お前と話すために抜け出してきたんだ」

 スモーカーくんの言葉を何度も頭で繰り返して不思議に思う。私と話すために抜け出してきた。……抜け出してきた?

「……やっぱり大丈夫じゃないんじゃない、体、大丈夫?」
「体は平気だ。嘘はついてない。つけない。いいから聞け」

 頑なに聞けと言われて困ってしまう。困らせたくないから何も聞けないのに。

「今ならなんでも言えるし全部本当のことだ」
「そんなこと言われてもそれが怖いのに……」
「あ? 怖い? 何がお前を怖がらせてる? おれがお前を傷付けるわけがないのに?」

 いつもよりおしゃべりなスモーカーくんの言葉に瞬く。スモーカーくんが私のことを傷付けないなんて当たり前のこと、わざわざ言わなくたってちゃんとわかってるよ。それでも改めて言葉に出されるとほんの少し驚いてしまう。それがスモーカーくんから見ればわかってなかったと思われてしまったのか、険しい表情が更に険しくなってしまった。

「おれが誤解されやすい性質なのは自覚してる。言葉足らずなくせに要らねェことばかり口に出してデリカシーがねェと怒られてばかりだ」
「そんなことないよ」

 今言葉足らずだったのは私の方で、それでスモーカーくんを傷付けてしまって慌てて遮ったのに滑り出した言葉が止まらなくて押し負ける。

「そんなことある。言葉が苦手なくせに、態度で示すのもうまくできない。お前といると馬鹿みたいに浮かれてばかりでいつも帰ってから反省してる。何回反省してもお前と会えば全部吹っ飛んで浮かれるから意味がない。だから良い機会だと思った、今ならおれの馬鹿みたいなプライドは自白剤のおかげで捨てられる。全部お前に曝け出せる。なのになんでお前は何も聞かねェ? 興味がないからか? 最初からおれに期待なんてしてないからか? お前が一言おれに好きかどうか聞くだけで、おれは嘘偽りなくお前に好きだと言えて、お前に信用してもらえるのに」

 怒涛の如く流れてきた愛情に固まってしまう。その愛情は嬉しいけど、信じてもらえないと思い込んでたスモーカーくんの気持ちを思うと悲しい。私は少しもスモーカーくんに不満なんてなかったのに。会うたびに浮かれてたことはわからなかったけど、スモーカーくんの愛を疑ったことなんてなかった。私の方が言葉足らずで、態度も示せてなかった。ぎゅ、とスモーカーくんに抱き付いて、ぴったりくっつく。

「私、スモーカーくんの愛情を疑ったことなんて少しもないよ」

 どくどくと心臓の音が跳ねるのが聞こえる。私に触れる時は煙のように柔らかく、優しく接してくれる。世界の端にまで届きそうな号令を出せる声がとても柔らかくなるのを知ってる。穏やかに私のそばにいてくれる。全部ちゃんと愛を感じてた。

「ちゃんとわかってるよ、わかってることを伝えられてなくてごめんね」
「謝るのはおれだろ」

 私の言っている意味がよくわからないのか戸惑いながら私の背中に腕を回してくれるスモーカーくんにもっと強く抱きつく。

「ううん、謝るのは私。だって私はスモーカーくんに愛されてるってちゃんとわかってたもん。でも私がスモーカーくんに伝えきれてなかった。スモーカーくんも私に愛されてることを今からちゃんと感じて」