タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2022/04/09


 ホテルの二階の窓から外を眺めていると、むっすー、とあからさまに機嫌の悪いサンジくんを遠目に見つけて物珍しさに思わず瞬いてしまった。チンピラまがいな言動を繰り返すし、ルフィを叱ったりゾロと喧嘩したりで怒鳴ったり声を荒げたりすることはよくあるけど、切り替えも早く引き摺ったりしないタチのサンジくんが苛々しながら地面を踏みつけるようにして街中を歩いている。へら、とたまに通りすがる女の人相手に笑顔を浮かべながら手を振って、いつもならそのまま気分を上昇させるのに女の人を見送ってまた前を向けばまたどすどすと地面を踏みつけて怒りをあらわにしている。あんなふうにたったひとりで機嫌の悪いサンジくんは本当に珍しい。一体何がそんなに彼の機嫌を損ねてるんだろう。

「サンジくん」
「!」

 猫背気味にどすどすと歩いていたサンジくんの背筋がピンッと伸びて、きょろきょろとあたりを見回していて思わず笑う。普通の人ならきっと聞こえない声量でそっと囁いただけの声に、あんなに機嫌が悪くても聞き取ってしまうサンジくんの聴力が面白い。辺りを見渡しても見つからない声の主に一瞬だけパッと花開いた笑顔がまた沈む。機嫌の悪そうだった表情が今度は迷子になった小さな男の子が泣きたくても泣いちゃ駄目だとグッと堪えているような表情になって慌てて窓から身を乗り出した。

「サンジくん! 上だよ! 上!」

 弾かれたように上げられた右目と視線が交わって、そのいじらしい顔が伏せられる前に間に合ったことにホッとする。機嫌の悪い顔も、悲しげな顔も鳴りを潜めて今はただ嬉しそうに頬を緩めてぶんぶんと両手を私に向かって振るサンジくんはいつも通りで安心する。

「レディ、何してるの?」
「サンジくんこそどうしたの? ご機嫌斜めだったね?」
「えっ、」

 み、みてたの……と目を丸くして気まずそうにするサンジくんに頬が緩む。

「……レディ、昼飯は食った?」
「?」

 視線が一瞬泳いで、それから問われた質問が唐突で誤魔化すにしても変な話題変換に思わず首を傾げてしまう。それでも聞かれたくなかったことだったのかな、と申し訳なく思ってその唐突なサンジくんの質問に流されようと首を振る。瞬間、気まずそうだったサンジくんの表情がまた花開いて、それからすぐにまた困ったように表情を歪めて口籠るから傾げた首が元に戻らない。

「どうしたの?」
「あの、その、……ええと、……」
「?」

 私の耳はサンジくんと違ってそこまで聴力が良いわけではなくて、どんどん俯いていくサンジくんの小さな声は二階に届かなくてなあに、ともう一度聞き返す。

「……おっ、おれが、レディの昼飯、作っても、いい?」
「! いいの!?」

 まだ小さな声で恥ずかしそうにしてたけどほんの少しだけさっきよりも大きな声で言ってくれたおかげでなんとか聞き取れて、その言葉が脳にたどり着いた瞬間今日はサンジくんの貴重な休日だということも忘れて嬉しくて窓から身を乗り出した。示し合わせたわけじゃないけど、久々ののどかな島に船を寄せられたから毎日働き詰めのサンジくんに休んでもらおうと朝一番に解散したは良いものの、なんだか物足りなかった。私の勢いに一瞬目を見開いていたけどそれでも私の返事に嬉しそうにくすぐったげに笑うサンジくんが可愛らしくて思わず笑う。サンジくんに少しでも休んでもらおうと思っていたけれど、こんなに嬉しそうにはにかんでくれるんだからこれを断る方がサンジくんに失礼だし、だなんて都合良く考えて、がた、と窓辺に足をかける。くすぐったそうに笑っていたサンジくんがギョッとする。受け止めてね、と言えば焦りながらもすぐに両手を広げてくれるからよいしょっとサンジくんの腕の中に飛び込んだ。驚きながらも全くよろめいたりしないサンジくんに抱えられて目が合う。

「その、その……みんながおれを休ませるために今日のメシは各自で取ろうとしてくれてるのはわかってたんだけど、おれは、……おれの作ったメシを食ってもらうのがやっぱ一番、嬉しいんだ」





サンジくん視点も書こうと思ったけど没にしたやつ勿体無い精神で載せます

 地面を蹴る足取りがいつもより重い。気がする。いつもより砂埃が立つのはおれが地面を踏みしめる力がいつもと違って強いから。だと、思う。わからない。苛々しているような、悲しいような、怒ってるような、だけど、幸せなような、よくわからない感情がぐるぐる胸の中を渦巻いているせいで自分で自分のことがよくわからない。
 暇だから考えてしまう。暇なのは、みんな(主に麗しのレディたち)が優しいから。島に着いた瞬間、いつもなら弁当を作って上陸するのにレディたちがそれぞれ野郎どもをうまく言いくるめてぞろぞろと出発してしまった。訳もわからずぽつん、と残されたおれに、船番のブルックが「今日はのんびり過ごしてくださいね」と声をかけてきたことでみんなの優しさに気付いて、ぽかんとしてから気恥ずかしさに船から逃げ出してしまった。
 別におれ、大変だと思ったことねェんだけどな。
 最初はみんなの優しさにふわふわ浮かれていた気持ちがどんどん沈んでいく。