タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2022/04/10


 しくしくと地面に崩れ落ちながら泣くおれの背中をつんつん、とつつかれて振り向けば見知らぬレディ。ぼろぼろと涙を流しているせいではっきり彼女の顔を見れないけど、白い服を着たレディはとても清楚で麗しく、地面に崩れ落ちる怪しい男に声をかけてくれる勇気もある優しい彼女に涙が止まるほど心打たれる。

「大丈夫ですか? 何かありました?」

 いまだに地面に崩れ落ちたままのおれに合わせるようにしゃがみ込んで、ひた、と頬に布の感触がして思わずびくついてしまう。頬をびしゃびしゃに濡らしていた涙をハンカチで拭ってくれるレディに慌てて身を引こうとするももうとっくにおれの涙は吸収されていて今更引いたところで意味はないからと甘んじてその天使のような優しさに身を委ねる。

「こんなに泣いて……何があったんですか? 私もついさっきこの島に来たばかりであまりよくは知らないのですが、治安は良いと聞いていたのですけれど」

 おれを案じてくれながら不安を滲ませる彼女に思わず慌てる。安全と思っていた島で大の男が地面に伏して大泣きしているところを見てしまったんだから不安に顔を歪ませてしまうのは仕方がない。おれのプライドなんかどうでもいい、とにかく彼女の不安を取っ払わなければ、と慌てて口を開く。

「いや、その、レディをデートにお誘いして、フラれたから泣いてただけで何かあったとかそういうことではなくて、」
「……あら」

 レディの肌触りの良いハンカチが顔全部を滑って水分を吸い取ってくれたおかげでようやく涙で滲んでぼやけて見えていたレディの顔の輪郭がはっきり見えた。治安が悪いのかと不安を滲ませた心優しきレディが、少し情けないおれの言葉を聞いておかしそうに笑みをこぼしたのを見て心臓がどくんと大きな音を立てる。

「うふふ、……こほ、振られたのに笑い事じゃありませんね、すみません」
「いやっ、こうしてあなたに笑っていただけただけでおれの心は土砂降りの雨から虹の輝く曇りなき青空になりました! あなたはおれを癒しに来てくれた純白の服を身に纏った天使では……?」
「ふふふっあはっ、変な人ですね」

 涙を拭い終えてくれたのか頬に添えられていたハンカチが肌から離れて寂しくなって、もう一度涙を流せばまた触れてもらえるんじゃないかと考えたけれど、目の前で声を上げて笑うレディの愛らしさに心が癒されてひとかけらも涙がこぼれ落ちる気がしない。

「まあ、何事か事件があったわけではないみたいで安心しました」
「本当に優しい……天使……」

 思わず喘ぐように呟いたおれにまた微笑んでくれる天使に胸をおさえる。かわいい。笑いながら立ち上がった彼女はやっぱり純白の服とマントを風にたなびかせていて、やっぱり天使だとうっとり見上げる。微笑みながら立ち上がるようそっと手を差し伸べられて夢見心地で手を掴ませてもらおうとした。瞬間だった。レディの後ろ側から聞き覚えのある声と、何度も何度も聞いたことのある種類の怒鳴り声。ぴく、とレディの肩が揺れて手を引っ込められてしまってその手を掴むことができなくてがっかりするのと同時にこの後の展開も読めてしまってため息をつく。あの声の主、ルフィがまた問題を起こしてしまったんだな。こんな長閑な島は久しぶりだったし、天使との出会いに心浮かれていたのに。天使はにこにこ笑ってくれていたから涙を拭いてくれたお礼にとお食事にでもお誘いできたはずなのに。

「治安は良いと聞いていたのだけれど、そうでもなかったみたいですね」
「あ、大丈夫だよ、レディ、心配しなくても、」

 目の前のレディが不安に震えているのかと思ってアレは一般人には暴力振るったりしないから、と慌てて顔を上げて安心してもらおうと思ったのに、見上げたレディの表情は見惚れてしまうほど勇ましくきりりと引き締まっていて言葉が止まる。

「大丈夫です。あなたは私のことを純白の天使だと言ってくれましたが、天使などではなく、ただの海軍ですので」
「え、」

 背後から聞こえてくる雑踏に、レディが振り向いた瞬間、純白のマントが翻って目の前に正義の文字。ギョッと目を剥く暇もなく、勇ましいレディが感想に向かって駆け出すのと同時にぴょんぴょん跳ね回るゴムと目が合った。

「あっ、サンジー!」

 駆け出したはずのレディが急ブレーキをかけてまたおれの方へ向く。その表情はおれと同じく目を見開いて驚き固まっていて。

「あれは麦わらの、……じゃああなたは、黒足の、」

 震える唇がおれの名前を紡ぐ前に長いゴムが伸びてきておれの体にぐるぐると巻き付いて顔が引き攣る。やばい。これは、この流れは、引っ張られる。そう覚悟する間もなく、ビュンッ、とルフィの元へ引き寄せられる。

「黒足のサンジ……?」

 レディの麗しの声がおれの名前を紡いだ気がして、だけど気を失いかけているせいで現実なのか幻聴なのか判断ができなかった。