タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2022/04/18


 どうしようどうしようと慌てても目の前で静かに、だけど大粒の涙をぼろぼろと流して泣いているサンジくんが瞬き一つの間に笑顔に変わったりなんてしない。だけど瞬き一つの間にサンジくんは蛇口を捻れば流れる水のように涙を流し始めたから、また瞬き一つの間にキュッと締まってくれないかな、だなんて現実逃避をしてしまう。どうして。本当にいきなり涙腺のタガが外れたかのように泣き出した。だって、さっきまで普通に話してたはずだった。サンジくんも私も穏やかに笑って夜の静かなダイニングでふたり談笑をしていただけだったのに。

「……? レディ、急に黙り込んでどうしたんだい?」
「え」

 静かなレディももちろん素敵だけど、なんて普通に話しかけられて戸惑う。言葉だけ聞けばいつも通りのサンジくん。だけどその目からは相変わらず大粒の涙が大量に零れ落ちている。まさか、自分が泣いていることに気付いていないんだろうか。

「……レディ?」

 不思議そうに首を傾ければ、流れる涙の筋も横に傾く。びしゃびしゃに頬を涙で濡らしていることにどうして気付かないんだろう。胸が苦しくなって、思わず手を伸ばした。不思議そうに、だけど全く避ける気はないサンジくんは簡単に触れることができて私の手が一瞬で涙に濡れる。

「なに、なにか、嫌なことでもあった?」

 それとも私が気付いてないだけでサンジくんを傷付けてしまったんだろうか。ようやく現実逃避をやめて現状をどうにかしようと口にした言葉は少し情けなく声が震える。尚も不思議そうなサンジくんは瞬くたびに涙が溢れて目尻を指で拭ったって意味はない。大きなタオルが必要だけど、そんなの取りに行く暇なんて今はない。少しでもサンジくんの心を癒せるように心を砕くことしか私にはできない。

「? 嫌なことだなんて、どうしたの、レディ。レディとふたりでこうして過ごす今ほど幸せな時間はないよ」

 とろけるように甘い声で言われても、サンジくんの目からは大粒の涙。前髪で隠れているけど、両手を差し入れた髪の下で両目から巫鳥に涙があふれているのがよくわかる。

「レディに触ってもらえて、すごくうれしい」
「じゃあどうして泣いてるの?」

 責めるような音にならないように、サンジくんがいつもかけてくれる声の甘さを思い出して参考にする。それでもサンジくんが泣いていることに動揺してどうしても声が硬くなってしまった。私の言葉に首を傾げたままだったサンジくんが不思議そうに瞬くたびにぽろぽろと涙が零れ落ちて、私の手も既に涙だびしょびしょになっている。手じゃ涙を拭えないことは分かっていても、目尻をさすり、頬を撫で、どうにかしようと勝手に手は動いた。

「泣いてる……? ……、なんで」

 サンジくんの声が震えて、サンジくんの手が私の手を包むようにして重なった。泣いてる自覚がなかったのか濡れた手を見つめて不思議そうにするからとうとうたまらなくなって立ち上がる。不思議そうに目を丸くして私を見上げるサンジくんの黄色い頭を胸に抱えるように抱きしめた。

「れ、れでぃ、おれ、おれ、本当に今すごく幸せで、別に悲しくなんてなくて、だいじょ、うぶっ」

 驚いたのか身を硬くして腰を引いて逃げようとするサンジくんを、それでも逃がさない。泣いてる自覚がなかった人に、悲しくないよ、と言われても信用できない。サンジくんはみんなに甘くて優しいけど、サンジくんはサンジくんにだけやたらと当たりが強くて厳しいのを知っているから、サンジくんの大丈夫、は信じない。身じろぐサンジくんの丸い頭をぎゅっと強く抱きしめて離さない。