タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
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2022/04/19
か細い声が耳に残る・夢でなら逢える・意地の悪い笑顔でも愛しい DC松田
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「何してんだよ」
ニヤニヤとした声が後ろから聞こえて顔を顰める。振り向きたくなかったけど振り向かなければずっと突っかかられるということは今までの行動から身に染みて理解している。だから仕方なく振り返ればやっぱり口元をニヤニヤとさせて態度悪くポケットに手を突っ込んでいる松田くん。隣の席になってからというものの何故だかことあるごとに絡んでくる。最初はちょっと怖かったけど、最近は面倒だなあの気持ちの方が上回っていて私の神経も図太くなってしまった。
「いつからやってんだよ? もう日も暮れるぜ」
ホッチキス片手に先生に頼まれた書類をぱっちんぱっちんと止めている私の前の席に座って笑う姿にため息をつく。頬杖をついてにやにや笑うだけで手伝う気はないらしい。確かに窓の外は赤くなっていて、もう少しで夕日も沈んでしまいそう。
「……松田くんはこんな時間まで何してたの」
またぱっちんぱっちんと音を立てながら尋ねる。
「野球してた」
その言葉にさっきまで窓の外で聞こえてた数人の楽しげな声のうちの一人が松田くんだったことがわかって、また首を傾げる。
「なんで戻ってきたの?」
松田くんの腕には鞄が引っかかっていたし、遊ぶのに満足したなら忘れ物したわけでもない教室に戻らずにそのまま帰ればよかったのに。窓の外をもう一度見れば他の人たちはどうやら帰ったらしいし余計に訳がわからなくて首を傾げる。
「なんでって別に、……なんか外から間抜けな顔が見えたから」
「……」
フン、と鼻を鳴らされて眉を顰める。間抜けって。そりゃまあなんで先生も日直でもなんでもない私に頼むんだろう、なんて思ってちょっと不貞腐れながらぱっちんぱっちんしてた訳だけど、真面目に先生の言いつけを守る私のことを褒められるならまだしも間抜けな顔だなんて言われる筋合いはない。ホッチキスを握る手がいい加減疲れてきて、苛立ってたせいもある。訳もわからず突っかかられることに飽き飽きして、我慢していた糸がぷちんと切れた音がした。普段ならこんなこと絶対言わない。だけど松田くんだって好き勝手私に絡んできたんだから一度くらい言い返したってバチは当たらないと思う。ぱちん、とホッチキスを力一杯握りしめて、松田くんと目を合わせる。なんだよ、といつものニヤついた笑顔に、私も笑顔を貼り付けた。
「好きだからってちょっかいかけたり意地悪言うのって普通に嫌われるだけだからやめた方がいいよ」
自意識過剰だばーか、とニヤついた笑顔で秒で返されると思ったのに、ニヤついた笑顔と貼り付けた笑顔のふたりがただ見つめ合うだけの時間が訪れる。自意識過剰だばーか、と更にニヤつかれるのも嫌だけど、全スルーの方が恥ずかしい。気まずくなって視線を外そうとした瞬間、松田くんの唇が動いて視線を戻す。
「すっ、きじゃ、ねーよ、ばーーーか!!」
人の少ない校舎に響き渡ったんじゃないだろうかというほどの大きな音で叫ばれて目を見開く。見開いたおかげで松田くんの表情がよく見えた。いつもニヤついている表情が夕日の色よりも真っ赤に染まって崩れていて、挙句涙目になっている。そんな顔でそんなことを叫ばれてもとても信じられなくて、運が良ければ追っ払える、そんな気持ちの嫌味として放っただけの言葉に意味が付加されて戸惑う。がたん、と大きな音を立てて椅子から立ち上がって色んな人の机に体をぶつけながら教室を出て行く松田くんをただ見守ることしかできなかった。
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「あれ? 陣平ちゃんどこ行くの?」
「……教室」
目敏い萩には誤魔化しなんて効かないのはわかってるから素直に答える。ぞろぞろ帰って行く他のやつらを尻目に俺の隣へ近寄って教室を見上げる姿を睨み付けたところで萩がそれを苦に思うことなんてない。見上げた教室の先に見えた人影ににんまりと口を丸めて肩を小突いてきた萩に舌打ちをした。
「がんばれよ」
「うるせえ」
何もかもバレている萩に応援されても素直になれない俺が、好きな女に素直になれる訳がなかった。自分からどう距離を詰めればいいのかわからなくて最初は怖がられていたし、最近ではなんだか面倒がられている気配を感じる。それでも話しかけなければ距離を縮めることなんてできる訳がないから、用もないのに話しかけてはまた面倒がられての負のループ。
それでも今日は、話しかける用ができたと思っていたのに。野球ボールもそろそろ見えなくなる時間だからと解散する日暮れ、そんな中、ひとり教室に居残ってるのを見かけたから。危ないから一緒に帰ろうぜ、そんな優しい言い方出来るわけもないとは自分でもわかってたけど、それでもどうにか一緒に帰れるようにこじつけるつもりだった。書類綴じを手伝わなかったバチが当たったんだろうか。でもだって、少しでも長くふたりきりでいられる時間だと思ったんだ。だから手伝わずにぱちぱちと静かにホッチキスを止める手や真剣な顔を飽きもせず眺めてた。かわいいな、なんて思ってることがバレないようにつとめて、そのホッチキスを止める作業が終わる前にどうやって一緒に帰る流れにするか考えてた。
ぱちん、とホッチキスが止まる音のように視線が絡み合って一瞬息を呑む。にっこり、俺に向けられたことのない笑顔を真正面からぶつけられて今にも爆発するんじゃないかってくらいばくばくと心臓が高鳴っていたのに。
「好きだからってちょっかいかけたり意地悪言うのって普通に嫌われるだけだからやめた方がいいよ」
一瞬何を言われたのかわからなかった。ばくばくとうるさかった心臓が止まった気がして息をすることすら忘れる。ひゅ、と息を吸った瞬間に止まっていた心臓が働き出したのか一気に血の気が身体中に巡って体温が急上昇したのがわかった。息を吸って、空気を吐きながら何も考えずに放った言葉に今度は血の気が下がる。
「すっ、きじゃ、ねーよ、ばーーーか!!」
きょとんと目を見開いた表情も初めて向けられた。かわいいな、なんて思ってる暇はない。何も冷静に考えられる訳もなくとりあえずここから逃げようと体が勝手に動く。体中を何かにぶつけながら教室の外に這う這うの体で逃げ出して、冷たい廊下に蹲る。
意地悪を言いたかった訳じゃない。ただ一緒にいたくて、素直じゃない俺の口がさっきみたいに大暴れするだけで。だけど俺がどう思ってるのかなんて関係がない。受け取るあいつがちょっかいで意地悪だと言うなら、そう、なんだ。じゃあ、嫌われてるんだろうか。嫌われたのか、おれは。ばーかとまで言ってしまったもんな。自分から嫌われにいってしまったようなもんだ。くそ、とうずくまったまま頭を抱える。嫌われてても、送るくらいはいいだろうか。まだ沈み切っていないとはいえそろそろ暗くなるし、危ないし。だけどあいつにとっては俺が送ることの方が嫌だろうか。じゃあ後ろから見守るのは、……それこそストーカーで不審者だ。考えがまとまらずにため息をついた。
「……具合悪いの?」
「、」
上から降ってきた声に肩が揺れる。さっき罵倒をぶつけてきた相手にこうやって優しくするからおれみたいな面倒なやつに好かれるんだよ、なんて責任転嫁も甚だしい思考回路に嫌気がさしながら顔をあげる。さっきまで赤かったはずの廊下はいつの間にか日も沈み切ったのか、暗くて蛍光灯が頼りなく光っていて眉を顰めた。
「悪くねえ。……お前はそれ、終わったのか」
腕に抱えた書類を顎で示せば頷く姿に立ち上がる。ぐだぐだ考えても仕方がない。奪い取るように書類をかすみ取ればまた目を見開いて慌てている。
「持ってってやる。帰る用意してこい」
不思議そうに瞬かれて慌てて取り返そうとする手を避け続ける。優しく言えればいいのに、偉そうにしか言えないからちょっかいや意地悪だなんて言われてしまうんだ。わかってても優しい言葉なんてどう紡げばいいのかわからなかった。言われた通りにしない限り動こうとしない俺にようやく諦めたのか今度は慌てて教室に戻って鞄を急いで取ってきた姿に一息つく。教室から出てきて鍵を閉めてから気不味そうに俺を見上げる姿を見下ろして、口を開く。
「……お前は嫌かもしれねえけど、もう外も暗いし、今日だけは送らせろ。……意地悪してるつもりはなかった、悪い」
ようやく本来の目的の言葉を紡げても、あんな幼稚な罵倒をした後でどの口が言うんだと思われても仕方がない。お互いにとって気不味い時間になるのはわかっててもこのまま逃げて、この暗闇の中不審者に目をつけられてニュース沙汰にでもなったらだなんて思うとそれこそ嫌だ。言うだけ言ってとっとと職員室へ向かう俺の後を追う足音の持ち主から、戸惑う声は聞こえても拒絶の言葉が出なかったことに心底安堵した。
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