タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2022/04/20


 落ちる、と思った時には遅くて体は甲板から浮いて海へと真っ逆さま。みんなの声が一斉に私を呼んだのに喉は締まって返事が出来ずに荒れた海へドボン。すぐに戻ろうと手足を幾らばたつかせてもいつものように思うように泳げない。能力者のように海での自由を奪われたわけじゃないのに荒れた海は思うように前へ進ませてはくれなかった。どっちが前でどっちが後ろかもわからないほどもみくちゃに荒れているせいで進めていたとしても道があっていたかはわからなかったけど。
 頬にためていた数少ない空気が抜けてとうとう手足の力も抜ける。せめて海上に顔を出さないと。酸素を体に回らさないと。そう思うだけで体はどんどん沈んでいく。沈んでいた、はずだった。普段ひとつしか見えないはずの目がふたつ、はじめて見るふたつの目玉に驚いて、あまりにも見慣れなさすぎたせいでそれがサンジくんの顔だということに気付くのが一瞬遅れてしまった。水の中で綺麗な金色の髪が揺らめいて両眼が見える。そのふたつの目が私を見つけて大きく見開いて、ぐん、と凄い勢いで私に近付いてきて、まだ触れてもいないのにその姿に安心しきって意識を飛ばした。

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「レディ! 起きて、レディ!!」

 ぐっ、と胸元に強い衝撃と、サンジくんの悲痛な声が聞こえて目を開ける。しとどに濡れた金色の髪はまたいつものようにサンジくんの片方の目を隠していて少しだけ落胆する。はじめて両眼が見えて嬉しかったのに。けほっ、と口の中に海水の味が広がってようやく海水を大量に飲み込んでいたことを自覚して咳き込んだ。私を抱き起こして背中をさするサンジくんに有り難くそのままもたれかかって気付く。いつも通り片方だけ見える目玉からはぼろぼろと涙が溢れていて咳も止まる。なんで泣いてるの、涙を拭いたいのに手を持ち上げられなくてただ瞬くことしかできない。

「いき、息が、止まって、」

 サンジくんの震える声に自分が生死を彷徨っていたことを悟る。辺りを見渡せばサニー号の甲板じゃなくどこかの砂浜で、私とサンジくんしかいなくて、サンジくんの感じた不安が痛いくらい突き刺さって何を言えばいいのかわからない。助けてくれてありがとうも、心配かけてごめんも、言わなきゃいけないことだけどそんな言葉じゃ収まりきらない気がして、ぱくぱくと口を開いたり閉じたりすることしかできない。サンジくんの胸元にもたれかかって顔を上げれば止めどなく溢れる涙が私の顔に降ってくる。

「ごめん、ね、ありがと」

 結局それ以上の言葉は思い浮かばなくてそのふたつを声に出した。涙を止めたくて、安心させたくて言ったのに余計に溢れる涙にやっぱりそれ以上の言葉を何か思いつかなければいけなかったのにと後悔しても何も思い浮かばなくてようやく持ち上げられた指先でサンジくんの涙を拭うことしかできなかった。