タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2022/04/24


「サンジくんが欲しいならあげるよ」

 レディはいつもそう言って笑う。それは食べ物だったり、本だったり、花だったり、服だったり、宝物だったり、レディが手に持つものならなんだって。レディが何かを手に持つたびに自然と視線がそこへいってレディと目があってそう言われる。その度に慌てて首を振ってレディから何かを奪うなんてことするわけないよと言っても心優しきレディはその言葉を紡ぐことをやめなかった。何度も何度も「あげるよ」「大丈夫だよ」の繰り返し。

「サンジくんが欲しいならあげるよ」
「じゃあ、その……ひとくち、」

 あまりにも言われるからおれはよっぽど物欲しそうな顔をしてしまっているんだろうかと反省しつつもあわよくば長年の夢のあーん、をしてもらえるだろうかなんて邪な気持ちも抱いてレディの言葉におずおずと頷いた。ら、頼んだのはレディで、頼まれたのはおれだったっけ、なんて錯覚を起こしてしまいそうなほど嬉しそうに笑顔を花開かせた姿に驚いて、夢のあーん、を味わう暇もなくただただその笑顔に釘付けになってしまった。
 その華やかな笑顔がまた見たくて、時折わざとレディの皿に配分する量を多くして、「あげるよ」の言葉に「お願いします」と頷けば期待通りの笑顔が見れた。それが嬉しくて、おれの配分でどうにかなるマッチポンプを繰り返し散々あーんを甘受して、幸せに浸って、そして唐突にどこまで許されるのかが気になってしまった。レディの皿の盛り付けはおれがしてるわけで、欲しいな、とねだる時は少し多めに盛り付けていて、実際レディの食料を奪って減らしてるわけじゃない。だから、ほんとにレディの何かを欲しいなと言ったとしてもレディの表情は変わらず輝くのか、気になってしまって、魔が刺した。

「……それ、欲しいな」
「サンジくんが欲しいならあげるよ」

 それでもやっぱりレディに何かを贈るんじゃなくて貰うのは紳士として気が引けて、あと二、三プッシュすればなくなるだろうレディのお気に入りの香水を指差せば望んでいた笑顔。お気に入りなのに。残り少ないとは言えあと二、三プッシュは確実に使えるのに。おれがもらっても、使い道がないなんてことはレディもわかってるのに。それなのに嬉しそうで。

「それ、」
「サンジくんが欲しいならあげるよ」
「欲しい、な」
「いいよ」

 拾った貝殻も、一目惚れしたのと買ったばかりのハンカチも、万年筆も、宝物、も。なんだって笑顔で譲ってくれるレディのおかげでおれのロッカーはレディの小さな部屋のようになっている。レディはなんだって笑って譲ってくれる。おれに、だけ。それはルフィが駄々をこねるところを見たから知っている。くれよぉ〜とわがままを言うルフィに、これは私のだからダメ、と毅然と言い放つレディの姿は美しかった。だから、これはおれにだけ許されている蛮行。
 わかっているのに今日も肝心の、一番欲しいものが言えない。

「……欲しいって言ったら、くれるの?」
「あげるよ」
「なんでも?」
「サンジくんが欲しいなら」

 にこにこいつもと変わらぬ笑顔で頷かれて胸が軋む。じゃあ。じゃあ、レディの心、が欲しいって言ったらどうなるの。きっとはじめからそれだけが欲しかったのに、その言葉だけ口に出すのが難しくて今日もレディからブレスレットを譲ってもらう情けない男。