タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2022/04/28


 ゔゔぅ、とまるで母熊が子熊をこれ以上傷つけられないように唸り威嚇する姿に誰も手出しができなくなる。血塗れで唸り敵味方の分別すらつかなくなったあいつを現実に戻せるのはきっと、あいつが大事に大事に抱えている布切れみたいにぼろぼろになってぐったりしているサンジだけ。早く目を覚まして大丈夫だよ、と言ってほしいのに、血に隠された肌はそれでもいつも以上に蒼白になっていて一刻を争う状態なのがここからでもよくわかる。
 おれたちが二人を見つけた瞬間、二人とも血塗れで心臓が止まったかと思うくらい驚いて、どんな酷い目にあったのか近寄る人間全てを威嚇するあいつに近寄れず遠くからただもう安全だと叫ぶことしかできなかった。おれだよ、ウソップだよ、もう大丈夫だ、ルフィは勝った、そう叫んでも声は届かずただサンジを守ろうと威嚇する姿はいたましくて、見ているだけなのにつらかった。床に広がる血溜まりがさらに広がっている気がして、早く治療をしなければ危ないということは医者じゃなくてもわかる。そんな簡単なことすらわからなくなるほど錯乱してただ腕の中でサンジを守るあいつの血が、あいつから流れ出た血じゃないことにようやく気付く。べったりと全身に血がまとわりついていたけど、あいつの服は、肌は、傷ひとつなかった。サンジと一緒だったから。サンジが守りきったから。
 サンジに守られる怖さはよくわかる。「ナミさんの為ならお前が死んでも構わない」口ではあんなことを言っていたくせに、実際にそうなった時に自分が残っておれを投げ飛ばして助けてくれたり、シャボンティの時だってそうだ。サンジはいつも自分を足止めに使う。違うんだ、お前を残して助かったって何も嬉しくない。おれたちは、サンジと一緒に逃げたいんだ。
 いつまで経ってもそれをわかろうとしないから、あいつが壊れちまった。サンジが庇ったから確かにあいつは怪我ひとつない。だけど心が傷付いて、砕けて、おれたちのことすらわからなくなってる。血を洗い流すかのように大粒の涙を流して、自分のせいで傷付いたサンジをこれ以上傷付けまいと誰も近寄らせないように精一杯威嚇してる。
 心を壊しても、それでもサンジが好きだから守りたいんだよな、わかるよ。だから早く正気に戻ってくれ。おれたちは味方だから。だから早く手当てをしよう。頼むから。

「サンジは死なせねェ!」

 いつの間にか目の前に立っていたルフィが静かに、だけど世界中に響いたんじゃないかってくらいの迫力で紡がれた言葉にあいつに声をかけていた全員の動きが止まる。張り詰めた静けさに今までうつろに大粒の涙を流していた目玉が意志を持って動いて、初めて視線があった気がした。一歩、ルフィが歩みを進めてびしゃ、と液体を踏む音がする。

「サンジは死なせねェ。だから、チョッパーんとこ、行こう」

 同じ言葉を繰り返したルフィの背中越しにこくんと頷く姿が見えて、ようやく安心して床に崩れ落ちた。