タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2022/05/05


 がらがらと足元が崩れ落ちる気配がする。目の前にはクロコダイルさんが立っていて、最期の視界がクロコダイルさんだなんて、なんて贅沢なんだろうと笑って目を閉じた。ただ体が重力に負けて崖下に落ちていく浮遊感なのか、それともクロコダイルさんに恋する私の心が浮かれてふわふわしているだけなのかはわからない。それでも敵の攻撃がクロコダイルさんに当たらず、私の方へ向いてよかった。クロコダイルさんが狙われたとしてもきっと攻撃すら当たらずあの敵は一瞬で砂に溶けただけだろうけど、それでも私で良かったと思ってしまうのだから恋は本当に理屈じゃない。きっとクロコダイルさんには一生理解できない感情だろうな、なんて笑ったのにいつまで経っても衝撃が来なくて不思議に首を傾げる。最期の時は走馬灯が流れると言うけれど、こんなにも時間感覚がおかしくなるものなんだろうか。それとも衝撃を感じることもできないほどの致命傷で、このふわふわと浮く感覚は肉体から魂が飛び出てしまったから? 恐る恐る目を開けば宙に浮いていて、その考えが正しかったのかと驚いて瞬いて、肉体を見下ろそうとして視線を下に動かして私の死体が遠い地面の先に落ちていないことを確認して首を捻る。というか、足が見える。ということは、私の体はまだ地面に落ちていない。ぎょっとして暴れようとして暴れられないことに気がついた。砂に胴体をぐるぐると絡め取られていて、砂の先に視線を動かせば至極不機嫌な顔をしたクロコダイルさんが私を睨み付けていて固まる。ぐんっ、と急に引き寄せられてその勢いに思わず目を閉じた。どん、と壁にぶつかる痛みに呻いてようやく地面に叩き落とされたのかと、物理的に上げて落とされたことに少しおかしくなりながら今度こそ肉体から魂が飛び出てしまったんじゃないかと恐る恐る目を開いてヒュッと息を呑んだ。

「おれは許したか?」
「、」

 地面に叩き落とされたと思った衝撃はクロコダイルさんの胸元に顔をぶつけた衝撃だったらしく、目の前は上品な布に覆われて隠された壁のようなクロコダイルさんの胸筋で、視線を上に動かせば当然クロコダイルさんの顔がそこにあって息をすることを忘れる。はじめての近い距離があまりの衝撃で不敬にもクロコダイルさんのお言葉を無視してしまって慌てて機能停止していた思考回路を働かせた。さっきクロコダイルさんはなんて言ったっけ。

「おれは、許したか?」
「……?」

 クロコダイルさんの暗い目に捉えられて視線を外せずうんうん考えている私に、優しくももう一度同じことを低く怖い音で伝えてくれたクロコダイルさんにありがたく思う暇もなく混乱に陥る。クロコダイルさんの言いたいことがわからない。

「おれから離れることを許したか?」

 少しだけ言葉が変わって、それでも混乱する脳はそれを処理しきれなくて返事ができずにいる私に苛立っているのか、ぎり、と体が締め付けられた。思わず呻いて見たところで痛みが軽減するわけでもないのに胴体を絡め取っている砂に視線を下ろしたはずなのに、私の視界には砂ひとつ入らなくてぽかんと間抜けに口を開く。砂粒ひとつないのにぎりぎりと私の体を締め付けていたのはクロコダイルさんの腕、で、間抜けに開いた口からまた痛みに呻く声が漏れる。

「今までも許したことはないし、これから先も許すつもりはない」