タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2022/05/22


「レディはどんな男がタイプ?」

 見張りを任された牢屋の中から緊張感のかけらもない男の声がして思わず私の方の緊張感も解けてしまいそうになるのを慌てて引き締める。まあどちらにせよ、見張りを任されていると言ってもこの地下牢の階段の上の扉前には私を見張るための男たちも数人いるから私を攻略したところで意味はないのだけど。牢屋の中と外、少し自由に立ち回れるというだけで私とこの人はほぼ同じ境遇だ。胴体をぐるぐるロープで巻かれて転がされた男はにこにこしながら尚も私を見上げていてため息をつく。

「ねえレディ、ここの連中は荒っぽいね。レディはこんなところにいるより太陽の下のほうが似合うと思うなァ」
「私は夜の方が、」

 無視をしていればよかったのにあまりにものほほんとしているものだから私の口も思わず緩んでしまって慌てて口を噤む。危ない。このよくわからない男のペースに巻き込まれるところだった。だって訳の分からないことを言うから。自分を見張っている相手に太陽が似合うだのなんだの、平和ボケした言葉に苛立った。太陽の下なんて、今の私には一番似つかわしくない場所。太陽が隠れる時間が、私の活動時間。眩い太陽の下だとバレてしまう行動も、淡い月の光ならバレにくい。

「ああ、そうだね、月の下で見る君もきっと美しい。ふらりと夜の闇に紛れて人助けをする女神……なんッて素敵なんだ」

 月のような頭をした男の言葉に後退りそうになるのを耐える。きっと他意はない。ただの女好きで、頭がお花畑なだけ。それとも、この男は私を泳がすためにわざと捕まったフリをしている雇われだったりするんだろうか。背中に冷や汗が浮かんでぞわりと鳥肌が立つ。私が夜な夜なこの組織を裏切っていることがバレている? ……裏切るも何も、人質を取られているから仕方なく言うことを聞いているだけで仲間になった気なんて一瞬もないけれど。それでも、後ろ暗いこともたくさんした。あと少しのはずだった。あと少しで人質の居場所を突き止めて、あとは助けて逃げるだけのはずだったのに。いや、まだバレているとは限らない。この男の鼻の伸び具合は演技なんかじゃないはず。ただの女好き、きっとそう。

「太陽でも、月でも、雲でも、どれでもいいんだ。きっとなんだって似合う。だけど、こんな埃に塗れた地下は君の居場所にふさわしくない」

 甘い言葉ばかりかけられて心が揺らぎそうになる。私の失言を炙り出すための罠だったとしても泣いて縋りたくなってしまう声の優しさに唇が震える。真っ直ぐな視線と、真っ直ぐな言葉に駆け寄ってしまいそうになる。だけど罠じゃなかったとして、駆け寄ったとして、その言葉を吐く男は胴体をぐるぐるに巻かれている上に牢屋の中だ。そんな男に縋ったって傷の舐め合いくらいしかできない。だから、罠でも、罠じゃなくても今までの我慢と努力を無駄にしないためにも私は口を噤んで命じられたとおり見張るだけ。

「レディ、今は何時?」

 どんなに甘い言葉をかけられても無視を貫いた私に飽きたのか、唐突に時間を尋ねられて思わず顔を上げる。優しげに垂れた目と視線が交われば更に嬉しそうに垂れる目尻を向けられてもう一度尋ねられて腕時計に視線をやる。

「17時」
「夕陽に照らされるレディもきっと美しいんだろうなァ」

 全く飽きる様子のない口説き文句にいい加減にしてと腕時計から牢屋へ視線を向けたはずだった。ばきん、と鈍い音がして固まる。

「レディ、」

 鉄格子が、砕け散っていた。ぱき、とその鉄格子を踏み潰すのは、脳内がお花畑で埋め尽くされているだろうふわふわした男の黒い足、で。

「レディを縛り付けるものは全部おれが蹴り飛ばすからさ、一緒に外に出ようよ」

 いつの間にかぐるぐる巻きだったロープも千切れていて驚くことしかできない。

「レディ、もうひとりで頑張らなくても大丈夫なんだよ」