事件に巻き込まれた衝撃で忘れていたけど、哀ちゃんやコナンくんに自己紹介されてしまった。助かったような、もう逃げられないような複雑な気持ちになる。ぽろりと名前を喋ってしまいそうでハラハラしていたからとても助かった、けどもし次に名前を呼ぶ機会があるとすればそれは再び事件に巻き込まれるということなのでできればそっと遠目で見守るくらいの距離感でいたかったです。
 なんて思っていたのは我が道を行く降谷さんには通じないようでポアロになすすべもなく引っ張り込まれた。向かいの道歩いてたのに……。さすがに思い切り叫んで呼び止められたのを聞こえなかったふりして去ることはできなかった。
 なんでしょうと、カウンターに座らせてもらってコーヒーをいただきながらそわそわと尋ねれば、尋ねなければよかったと後悔した。

「デートしましょう」
「ぴゃ」
「うーん、いつまで経っても慣れてくれませんね」

 安室さんは本当に心臓に悪い。でも今のは私で遊んだでしょう。さすがにそれはわかりますよ。じとーっと降谷さんを睨め付ければさらりとそれを受け流されて悔しくなる。顔が良い。くそう。
 というか爆弾発言しませんでしたか。

「最近の若い子は友達同士で出かけることもデートだと言うみたいなので真似してみようかと」
「炎上してしまうので安室さんは真似しないでください」

 たしかに友人同士でふざけてデートしよなんて言うこともあるけれど、安室さんがそれを真似したら絶対に駄目だと思う。刺される。言われた人が。まあ今はポアロの中とはいえ、私以外誰もいないし安全なのだろうけど。

「いい加減慣れてもらおうと思いまして」
「すみません……顔が良すぎて……」
「褒められてるのはわかってるし、嬉しいんですけどね。でもそろそろ普通のときくらいは慣れてもらいたくて」

 普通のとき、とは。
 私が首をひねっていれば面白そうに少し笑われてさらにわからなくなる。

「僕がかっこつけたときはあの不思議な声を出しても良いです。かっこつけてるのになんの反応もないのはそれはそれで寂しいので。でも普通にしてるときの僕には慣れてもらおうかなと」
「な、なるほど……?」

 でも存在がかっこよすぎるから無理だと思います、なんて安室さんのにっこり笑顔には歯向かうことができなかった。有無を言わさない笑顔、綺麗だけどこわい。綺麗だからこわいのかもしれない。でも慣れるって言ったってどうすれば。

「だからデートしましょうって言ったじゃないですか。一日僕と過ごすんですよ」
「そんなことしてる暇あったら休んでください!」
「友達と遊ぶのは立派な休暇だが?」
「ひえ」
「……今のはかっこつけたつもりはなかったです」

 安室さんから急に降谷さんになるのは困ります。

「まあいいです。どこに行きたいですか?」
「えっ」
「僕はどこでも楽しめると思うので」

 いやそういう心配をしてるわけじゃなく。遊びに行くこと自体は決定事項なような物言いに驚いたんです、今のは。何をさらっと流してるんですか。私の予定とか……はもう知ってらっしゃるんでしょうけども。

「言っておきますが僕は他の友人の休日や今日はどこで働いてるかなども把握してるので、見張られているなどというような卑屈な考えにはならないように」
「ひえ」
「いる場所を把握していると頼みごとがしやすいので」
「な、なるほど……」

 なんとなく自意識過剰っぽい感じになってしまって少し気恥ずかしくなる。まあ私に何か頼みごとすることはないだろうけど。

「……それで。どこに行きたいですか?」
「……安室さんとお出かけですか」
「そうです。……他のやつが良いか」
「いえあのそういうことではなく……。ええと」

 降谷さんだと四六時中変な声出してそうなのでそれは困ります。

「……どこか、と言われましても」
「デートで無難なのはトロピカルランドとかですかね」
「ひっやめときましょう。あとデートっていうのやめてください」

 絶対に事件が起きる。それも映画版。あと普通に一番最初の事件がトラウマなのでこわい。首……。

「僕と一緒ですよ?」
「……たしかにそう考えるとこの上なく安全ですね……」
「少し僕を信用しすぎですけど大丈夫ですか」

 だけど降谷さんの一言で手のひらを返す。確かにそうだ。探偵や警察のいるところに事件あり、って感じだけど、そばにさえいれば一人でいるよりよっぽど安心で安全で、目から鱗だった。まあずっと一緒にいるなんてそんなことできるわけはないけど。でも一緒に行動している同行者をみすみす犯罪者の手に渡すなんてことは降谷さんは絶対にないだろうから。

「安室さんといると安全なのは絶対なのでどうせなら無難とかじゃなくて行きたいところに行きましょう! 安室さんはどこに行きたいですか?」
「……。だから僕はどこでも楽しめると思いますよ」
「どこでも楽しめるならなおさら確実に楽しめるところに行ってもっと楽しみましょうよ」
「…………では、水族館はどうですか」

 すこし黙り込んで逡巡してた降谷さんが提案した場所に私もすこし黙り込んでしまう。事件起きたところですか。ていうか今思ったけど逆にこの町で事件の起きてない土地とかあるんだろうか。……なさそう。もし事件が起きたとしても安室さんがいるなら安心だ。

「そうしましょう! 水族館なら癒されますし安室さんの疲れも取れそうです!」
「全部僕基準ですね、あなたは」

 呆れてる、とはまた違う気がするけど似たような表情を浮かべた降谷さんに首をかしげる。
 何を今更。
2019/10/26


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