「絶好のデート日和ですね」
「ひっやめてください刺される」
にこやかに告げられた言葉に思わず顔の良さを噛みしめる前に恐怖が前面に出てしまった。降谷さんといると安心安全だけど、安室さん原因で殺されるかもしれない。
「刺されませんよ」
「いやほんと何でスイッチ押されるかわからないので」
「でもデートって調べてみてくださいよ、事実ですから」
辞書的には確かに男女が日時を決めて会うことなので事実かもしれませんけど!
悲鳴は飲み込んだ。ここですったもんだしてる方が目立ってしまう気がする。そしてそれをわかっていて私で遊んでるような気がする降谷さんを睨みたくなる。早く照明の控えめなところに行って人の目から逃れて私の目も休めよう。顔が良すぎて長時間耐えられる気がしないから照明の暗めな水族館を選んでくれたのは結果的に良かった。
ふたりで受付まで行ってスマートに私を横に立たせようとしない降谷さんに、空気を読まずに割り込む。割り込むといっても触れたりはしてないです。美術品に触るなんてそんな。
「友達と出掛けるのに奢ったりとかはしないですよね。誕生日とかならまだしも。なので、今日は友達の練習なので、ちゃんと友達させてください」
「……わかりました」
財布をずいと降谷さんの前に差し出せばなんだか一瞬固まったような気がした。急に主張したから驚くなんてことは降谷さんならありえないだろうし、何に驚いたんだろう。あっ私が頑張って友達しようとしてることに驚いてくれたんだろうか。今日は頑張りますよ。せっかくの休日を私に割いてくれてるんですからやれるだけのことはちゃんとやります。
「なんだかくすぐったいですね」
ふたりできちんとそれぞれ払い終えてチケットを手に持った降谷さんが入り口に向かう道中で呟いて首をかしげる。
「いえ、友達になってくださいと言った僕の方が友達の説明をされてしまったので」
「えっあっすみません……?」
「男連中とはこういうところには来ないし、デート仕様になってました。友達、ですもんね」
「デート仕様は本当にやめてくださいね。刺されたくないので」
「ふ。刺されませんよ」
「ご自分の顔の良さをもっと理解してください」
本当に面白そうに笑うから冗談じゃないですよと念を押す。顔が良すぎるんですからね。周りにいる人が眉目秀麗ばかりだから慣れきってるのかもしれないですけど顔面が良すぎて挙動不審になるレベルなんですからね。
念を押せば押すほど楽しそうに笑みが深まるからのれんに腕押し状態で悩ましい。
顔が良い自覚はあるんだろうけど、その認識よりもっともっと顔が良いんだからもっと自覚してほしい。
「あなたの顔が良いは前ほど信用できなくなったので」
「へ?!」
「僕は一番じゃなかったので」
「……えぇ……」
結局一番なのはわかってるくせにどうして今日はそんなに意地が悪いのか。安室さんだから? いや安室さんはいつもにこやか優しいイメージなんだけど、どちらかといえば降谷さんはなんだか少し意地悪なイメージで、今目の前で私をからかって遊んでいるのは安室さんの皮を被った降谷さんな気がする。今日は安室さんで練習させてくれるんじゃなかったんですか。困ります。まだ水族館のチケット買っただけなのに。対安室さんならまだ頑張れるかもしれないけど降谷さん相手だとただ降伏するしかできないのに。
「今日は意地悪デイなんですか……? それともお友達にはこんな感じなんでしょうか……」
「そうですね、無茶振りが多いとは言われます」
無茶振りは対風見さんのあれやそれやで知ってますけど、お友達に無茶振りは必要ないのでは……。
あっでもいつ何時事件に巻き込まれるかわからない町なんだから降谷さんにふられる無茶振りなんて軽くいなせるぐらいじゃないと生き残れないんですかね。やっぱりただのモブは引っ越した方がいいのでは。
「嘘です、少しだけ意地悪したかっただけです。すみません、引っ越すのはやめてください」
「えっ」
「引越しを考えてる顔をしてました」
「あっはい」
困ったように微笑む姿に胸をおさえる。顔が良すぎて困り顔をされても私が困る。私の相変わらずなそんな反応に優しい笑みから呆れた笑みに変わってしまったけど芸術は損なわれなくて拝みたくなる。友達は拝まないから我慢しますけど。それにしても表情だけで心の内を読み取られるとか神様では?
「……相変わらずですね。まああなたのそれがすぐに治るわけがないとわかってはいましたけど」
「なら、」
「何回でも一緒に遊びましょうね」
「あっはい」
一瞬、やっぱりこんなおこがましすぎる関係を諦めてくれるんじゃないかと期待したけれど、有無を言わせない笑顔に速攻で頷く。別に友達関係が嫌なわけじゃなく、ただひたすらおこがましすぎると思ってしまうだけで。
綺麗で幻想的な水槽に皆釘付けで薄暗いのもあってそれぞれみんな自分の世界に入ってくれているおかげで降谷さんの芸術のような美貌に気付いていないのは大変助かるのですけど、私に特攻が効いてて困ります。薄暗い中水槽の明かりでぼんやり見える降谷さん、幻想的すぎて困ります。あまりの神々しさに目が。
「魚を見ましょうね」
「えっ」
「視線がすごいです」
「後ろにも目が付いてるんですか……?」
「ついてたら便利なんですけどね」
隣で肩を並べるのはまだ私には刺激が強くて半歩後ろを歩かせてもらっているのに、だからこそ水槽の中を観察している降谷さんを今がチャンスとばかりにこっそり見つめていたら普通にバレていて固まる。
「ほら見てください、ラッコかわいいですよ」
「安室さんの口からラッコって単語聞くの可愛いですね」
「……日に日にあなたがわからなくなっていきます」
頑張って友達しようとしたら引かれたんですけどどうしたら。友達といえば自然体だし何も考えずに発言しただけなのに。あと事実だし別にそこまで変なこと言ったつもりない。でもそういえばこの前も哀ちゃんやコナンくんにも引かれてたし、私がおかしいんだろうか。
「友達、難しいですね……」
「あなたが難しく考えてるだけだと思いますけど。普通に他の人と同じように接してくれればいいんですよ」
「でもここまで顔の整った友達はいないんです……」
「とりあえずの目標はこの顔に慣れてもらうことですね」
慣れるなんてことあるんだろうか。毎日毎分毎秒綺麗なのに……。
「この容姿とも長い付き合いなので否が応にも対処法を学んできたはずなんですけど、あなたのは他の人とはまた違った反応でどうすればいいのか僕にもわかりません」
困りましたね、なんて言いながらどこか楽しそうな降谷さんに首を傾げる。怒っ、られるとそれは困るんですけど褒めてはいるものの持って生まれたものはどうしようもないものだしそれに言及する私が失礼なのは当然なのに、楽しそうに受け流してくれる降谷さんはやっぱり懐が広すぎてもはや神。
「いえ、僕も難しく考えてるわけじゃないんですけど、こういう風に手探りに相手のことを知ったり知ってもらったりするの、学生以来だなと思いまして。青春感ありますよね」
「……たしかに」
「大人になると友達ってあまり作らないですから。学生の時の友達も連絡は遠ざかっていきますし」
「ふへ」
降谷さんとしてはみんなと話せないのはやっぱり寂しいかもしれないけど、今この世界では安室さんとしてみんなと話せる幸せな空間だからと思わずにやけてしまった。
「……なんの笑いですか」
「いえなんでも」
そして注意される。注意といってもにこやかな笑顔だったけれど。降谷さんも今のは狙っただろうし。
「まあこれからは積極的に友達と連絡取り続けますけど。側にいた方が安全だとお墨付きももらえましたし」
「それはそうなんですけども」
「あなたが言ったんですよ?」
にっこり微笑まれて頬が引きつる。
それはそうなんですけども。
「頑張りましょうね」
「はい」
イエスしか認めない笑顔だった。
「誕生日でもないのに贈り物をするのは友達の定義から外れるかもしれないですが、でも、贈りたいんです。友達になった記念は駄目ですか」
「……それなら、……それなら私も何か見繕ってきます!」
一大ミッションを遂行するために使命感に燃え一時解散!とノリでショップ内で別れてしまって後悔する。すぐに降谷さんの安眠の役に立てそうな触り心地の良いぬいぐるみに目をつけてレジに通したはいいものの、今まで薄暗くてバレなかった降谷さんの綺麗さが大衆の目に触れてしまった。ちらちらと女性客の視線が銃弾のように飛び交っている。降谷さんは慣れっこなのかそんな視線をものともせず会計を終わらせ私の方に向かってくるから思わず後退してしまった。
「どうして逃げるんですか」
「あっいえあの、すみません」
なんだ女連れかみたいな空気になって視線が霧散してホッとして謝る。
たぶん理由なんてお見通しなんだろうけど私で遊ぶ降谷さんは楽しそうに笑っていて困る。楽しそうなのは大変喜ばしいことですけど、私としては下手すると痴情のもつれに巻き込まれる可能性があるので勘弁していただきたい複雑な気持ちです。
うんうんと考え込んでいればしゃらん、と涼やかな音が鳴るものを目の前に差し出されて目を丸くする。
「わぁ、きれい」
海の動物たちが象られた透明なブレスレットに思わず言葉が漏れる。
「それは良かった。……僕のこれは、……どういう気持ちでほぼ三十路の男にこのわりと大きめなぬいぐるみを選んだんです?」
「えっ駄目ですか」
私が腕に抱えるぬいぐるみを見て困ったように笑う降谷さんに失敗したかと心臓が嫌な音を立てた。浮かれすぎただろうか。
「駄目ではないですよ、嫌でもないです、友達のためにと選んでくれたものならなんでも嬉しいですけど、うれしいですけど、僕の部屋にこれがあったら可愛すぎやしませんか?」
「えっ、安室さんの部屋に何があっても最高にかわいいし、なんなら何もなくても安室さんが住んでるっていうだけですごい価値があるんですけど」
「なにもないことはないですよ」
「わあ棒読み」
「正直寝るためだけの部屋ですから」
「よかった、なら使い道はありますね。寝るときのお供にどうぞ。触り心地がびっくりするほど良かったのでそれに決めました」
「確かに、触り心地はいいですね」
寝るためだけの部屋、ということはまだハロちゃんとは出会ってないんだろうか。時間軸が全くわからない。そもそもみんなが助かって幸せな世界が同じ運命を辿るかどうかもわからないし、全く違う展開になっていてもおかしくない。まあ、考えてもわからないことは横に置いておこう。降谷さんがいれば物事はスムーズに進んでるはず。ただでさえそうなのに同期チーム大集合なので更に円滑に進んでるはずだからモブが心配することは何1つないはず。私は私の身の回りだけ心配してればいい。心配したところでどうすればいいのか全くわからないけど。
「今日は事件も起きなかったし、絵画のように綺麗な画角をこの目に焼き付けられて楽しかったです。安室さんも少しは癒されましたか?」
「少しどころか、とても癒されましたし楽しかったですよ」
大きなぬいぐるみを持って微笑む姿に胸を抑える。とんでもない組み合わせだ。なんてものを渡してしまったんだ私は。破壊力が抜群すぎる。
「そういう面白い反応もたくさん見れたので。慣れてもらうためのデートでしたが、」
「デートって言うのやめてください」
「……慣れてもらうためのお出掛けでしたが、これがなくなるのはそれはそれで寂しいなと思うくらいには楽しかったです」
「慣れることはないと思うんですよね……毎分毎秒芸術に磨きがかかってるので」
「心配しなくても大丈夫です。慣れますよ」
「えっ」
「慣れます」
私のことなのに降谷さんに言い切られてしまって固まる。慣れませんけど……?
2019/11/21
夢書くとき夢主の設定は人間っていう本当に大雑把な設定しか考えないので、夢主の好みとか仕事とか見た目とかもあえて書いてないネームレスどころか何もかもレス(?)なのでどこに出勤してるかとか、今回の話だとなんのぬいぐるみをプレゼントしたかとかは好きなように想像してください。夢じゃなかったの夢主設定は美人好きと仕事してる年齢くらいってことしか決めてないです。