▽▽▽狙撃手の憂いごと

「サンジさんッ!」
「レディ!」
「おめェらほんとばか!!!!!!!」

 くるくるとダンスを踊っているかのように舞う二人はそりゃもうどこぞのお城の舞踏会ですかというほど様になっている。サンジはそりゃ真剣な顔してりゃ王子様みたいだし、というかまあ王子様だけれども。そしてサンジを盲目的に崇拝している最近仲間入りしたあいつは、サンジのプリンセスだ。だからまあ、ここがお城で、舞踏会に招待されてるならおまえらのダンスはそりゃあMVPを取れるだろうってほど息がぴったりで、お似合いだ。
 でもなおまえら、ここ戦場なんだよ。くるくるくるくるしやがって。お互いがお互い敵からの攻撃を代わりに受けようとしては場所をチェンジして代わりに受けようとしてはチェンジしての攻防なだけで決して踊ってるわけじゃない。あいつらはめちゃくちゃばかだけど、やってることは桁外れに優しい真面目な庇いあいだ。まあ最初の頃のように身代わりになって攻撃を受けてしまってみんなでハラハラとチョッパーの治療を待つよりあんな風にばかみてェな光景を見てやきもきするほうがまだマシだけれど。
 あいつら二人の自己犠牲のハンパなさはこの船に乗ってるやつらは全員知ってる。サンジはあのいざこざがあってからなんだか吹っ切れたのか、ほんの少しだけマシになった。マシになったとは言え世間一般と比べるとまだまだ自己犠牲にまみれたナイトだけれど。まあそれがサンジくんなので仕方ない。前より命を大事にしてくれるようになったから良い。
 でももう一人の方がまだ、反省してるようでしていない。でもその自己犠牲はサンジにだけ向いているからまだマシ。サンジが危険な目にさえ合わなきゃいいんだからな。
 なんて、うちの船のコックでもあり主戦力でもあるサンジくんはわりといつも危険な目にあうし、ナミやロビンが危険な目に遭えばそれはつまりサンジが危険な目に遭うということで、そしてあいつは男は勝手に逃げろクソがなんて言いつつおれやチョッパーが危険な目にあっても結局は助けに来てくれるわけで、常に危険と隣り合わせだからマシでもなんでもない。
 最近のおれやナミは正直、あの二人が怖くて怖くて仕方がない。おれは遠距離でさえいればそれはもう、強くなったって自負してる。でもたまに逃げ遅れて近距離戦に持ち込まれる。そういうときおれはいつもいつも死を覚悟してしまう。だけど覚悟しつつ、みんなが助けてくれる、なんて甘い思考でどうにかこうにか逃げて生き延びる。でも最近はだめだ。まずその状況を作り出すのがこわい。サンジは助けに来てくれる。そこまではいつものことだ。今までだったらありがたく助けてもらってる。でも最近は王子を盲目的に崇拝する姫がこの船に乗っている。人魚姫のように、王子のためなら死をも恐れない姫だ。だからだめだ。サンジに助けてもらったら、姫が王子を助けようと寄ってきてしまう。それがこわい。命を投げ出すような姫がついてくる王子に助けられるのはヒヤヒヤどころじゃない。こわい。やめてほしい。いっそ助けに来ないでほしい。なんとかするから。逃げるから。
 そんな心の声は届くはずもなく、今日の餌食はナミだった。涙を目に溜めて「ばかばかばかばか私のことなんて庇わなくていいから命大事にして!!!!!」と叫びながらクリマタクトを振り回している。

「ごめんねナミさんおれも怒ってるんだけどね」
「サンジくんは人のこと言えないんだから黙ってなさいよ!!! そもそもあんたが私を助けにくるからその子がくっついてくるんでしょうが!!!! ばか!!!!!」

 ああただ庇われるんじゃなくって自分の命をひょいと差し出して庇われるのって本当にこわい。おれじゃなくてよかった。
 泣きながらブチ切れるナミの気持ちが痛いほどよくわかる。
 王子様とお姫様はいまだに踊るように敵の攻撃を自分に向けるためにくるくるくるくる回ってる。時折王子様の黒くて長い足が炎を纏いながら敵を的確に伸している。お姫様も時折王子様の真似をするかのように敵を吹っ飛ばしている。そう、そうだ、頼むから人魚姫の真似はしないで吹っ飛ばしてくれ。

2021/04/30