「ねえサンジくん」
「なーにー?」

 サンジくんは私にだけメロメロになってくれない。はじめは悲しかったけど、でも、ある意味特別だと思うことで心の均衡をたもてた。鼻血を出したり奇行に走ったりしないだけで明らかに男の人たちに接するよりは甘く優しくしてはくれるし。

「あのね、お願いがあるの」
「なにかな? おれにできることならなんでもするよ」
「足、触りたい」

 にっこり優しく振りまいてくれていた笑顔が固まった。流石にダメか〜。だめでもともとのおねがいだから別にそこまでがっかりしない。買ったこともないくせに宝くじが当たれば良いのにな〜なんていう願い事と同じくらいの言葉だったから。

「な、なんで?」
「触りたいから」

 硬直から解けたサンジくんに理由を聞かれてもそう答えるしかできない。触りたいから、以外に何があると思ったんだろう。さすがに好きだから触りたい、とまでにあけすけなことは言えないけど。でも言ってしまったようなものかな。そうだとしてもサンジくんはきっと気付かないふりをしてくれる。優しい、優しすぎる人だから。

「……いいけど、今日はだめ」
「どうして?」

 まさかの宝くじが当たってしまったことに喜ぶより疑問が湧く。足を触ることに日を跨がせる理由なんてあるんだろうか。

「明日のおやつのあとならいいよ」
「わかった」

 答えてくれそうにないのがわかって深くはほらない。私だってサンジくんにそうしてもらったんだから。










「……!!!!!」
「え〜と……どう座ればレディに足を向けないで済むんだ……こう……いや、こう……結局横に座るのが一番マシか……?」

 3時のおやつの後にサンジくんのもとを尋ねた瞬間衝撃が走る。きっと、私が触りやすいように短パンを履いてくれているんだろうけど、サンジくんの足が問題だった。
 私が床に崩れ落ちる音でサンジくんの足がこちら側に向いて嘆く。

「つるつる……!!」
「え」
「じょりじょりしたかったのに……!!」
「え」
「なんで剃っちゃったの……!! サンジくんのばかぁ!!」

 言葉にしてしまえば自然と涙もあふれてしまう。せっかく。せっかく宝くじが当たったのに……!

「ご、ごめん、その、……そんな理由だとは思わなくて……触り心地が良い方がいいかなって」
「うええん、じょりじょり……したかった……」
「ちょ、おれのすね毛でマジ泣きやめて、ごめん、ごめんね、泣かないで」

 サンジくんが慌てて私に駆け寄って跪いて涙をぬぐってくれる。涙が伝う両頬に両手を添えて優しく拭いてくれるからつられて床に落ちていた視線が上がる。足が長いから王子様みたいね、なんて現実逃避しちゃった。だって、せっかく宝くじが当たったのに。
 優しいサンジくんが好きだけど今日に限ってはその優しさのせいで私は傷心だ。

「……ほら、ここにもじょりじょりあるから、泣かないで」

 私の両頬から手を離して名残惜しむ暇もなく崩れ落ちて床についている私の手を優しく両手で掴んだサンジくんがそっと顎髭に添えてくれて涙が止まる。

「……てか足よりこっちの方がまだ汚くないでしょ……なんで足にしたの……」
「サンジくんの顔綺麗だからじょりじょりに集中できないと思って」
「え」
「あ」

 あまりの衝撃につるりと本音が溢れてしまった。

「……男のおれなんかより君の方が綺麗だよ」

 その言葉は嬉しいけれど、ナミちゃんやロビンちゃんや、他の女の人に向けるみたいに私にはメロリンメロリンしてくれない。お世辞だってわかってても好きな人からの褒め言葉は素直に嬉しい。でもサンジくんに恋心を抱いてる私には少し悲しくて、だけど優しいサンジくんに小さく笑みを浮かべる。

「じょりじょりしてるね」
「そりゃまあ、お髭なもので」

 サンジくんからの悲しい特別扱いなのはいつものことだしそんな考えは宝くじ当選した今捨ててしまってこの絶好の機会を逃さずに触る。無心で触れば触るほどなんだか本当に楽しくなってきた。

「……足もまた伸びたら触らせてくれる?」
「……うーーーん」

 楽しくなった勢いでもう一度挑戦してみてサンジくんの困った笑みにやっぱりだめかあと欲張りになった心が落胆する。最初は触らせてもらえるわけなんてないと思ってダメ元で口にしただけなのに、一度こうして許してもらってしまって強欲になってしまった。今この瞬間おひげを触らせてもらえるだけで一生に一度のまたとない機会なのにこれ以上を望むだなんて。今この瞬間を大事に大事にじょりじょりしなきゃ。

「次、こうやって顔触られてそんな顔されたら襲わない自信がないからだめ」
「え」
「…………あんまりレディが男の毛じょりじょりしたいとか言うものじゃないよ」
「え???」
「パクッと美味しく料理されちゃうからね」

 え、と声に出したかったのに出せなかった。私の指の腹はじょりじょりとしたお髭をすべっていたはずなのに、あたたかくてしめってやわらかい感触に包まれていて、ひゅっ、と息が止まる。

「た、たべ、た、」
「今のは味見」

 ちゅ、と音を立てて私の指がサンジくんの口の中から出てきて、私の指のはずなのに思うように動かせなかった。

2021/03/03