サンジくんはあの子とパーティーに潜入してね。そう言われて浮かれていたのに、おれは給仕係でレディはパーティ客。おれがドレスアップしたレディを恭しく紳士にエスコートしたかったのに。
いついかなる時に何が起きても大丈夫なようにレディの気配だけはずっと追ったままで給仕もとい情報収集を続けていれば、レディの気配がぶわりと喜色ばんで思わず振り返る。おれが手渡したグラスを持って優雅に微笑みながら、どこぞのクソ野郎とにこにこおしゃべりに興じていて気持ちがしゅるしゅるとしぼんだ。なんで、レディ、そんな男がタイプなんですか。そんな、鼻の下が伸びきってる下心丸見えの、そんな、どうして。
本当は今すぐにでもレディのそばに駆けつけたい。だけどレディは本当に、心の底から笑ってる。演技とかじゃなくて、本心で喜んでるのが見聞色でひしひしと伝わってくる。だから、行けない。今行くと邪魔なのはおれ。潜入だって台無しになる。だから、我慢して、笑顔を貼り付けて給仕と情報収集に勤しんだ。
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おれ達が(というよりルフィが)潜入なんてことできるはずもなく。痺れを切らしたルフィが海軍ごと壁を打ち破り、迷子になったマリモが天井を切り裂きようやく目的地に辿り着いた頃にはパーティー会場は海軍や海賊が入り乱れていた。仕方ない。いつものことだ。ルフィの邪魔をしようとする海軍を蹴り払ってレディを見やればまだあの男のそばにいた。わかっていた。ずっと気を張って、レディが少しでも嫌がる素振りを見せればすぐにでも、それこそ潜入を台無しにしてでもあの男を蹴り飛ばすつもりだったのに。レディの気配はずっと穏やかで、嬉しそうなまま変わらなかった。ずっと、ずっとだ。だけどもう潜入も終わり。慌てふためきながらか弱きレディを守ろうとする気概だけは認めてやる。だけどその手でレディに触れようとするな。レディ、と声を張り上げれば楽しそうな視線がおれにぶつかる。いつもなら嬉しいその楽しそうな目が、その男によって作られたものと思うだけでなんだか落ち着かなくて、心の狭い自分が嫌になる。
手を差し伸べればするりとなんの疑いもなく絡め取られるおれより小さな手。くい、と優しく引っ張って腕の中へ抱き上げる。これでやっとあの男から離せる。そう思ったのにレディは首を捻って男へと視線を向けて心臓が痛んだ。嬉しかった、ありがとう、そう言って頬を緩ませて手を振る姿に、ずきずきと胸が締め付けられた。
「んふふ」
「……いいことあったの?」
楽しそうに腕の中で胸に擦り寄りながら笑うレディに尋ねた声はひどく嫉妬にまみれていて汚かった。そんなおれに気付かずに嬉しそうなまま笑みを浮かべている。
「うん。素敵な香りですねって」
「……おれだって毎日いつも思ってるよ、レディは本当にいつも素敵だ」
「サンジくんにはわからないよ」
くすくす笑いながら告げられた言葉に力加減を間違えて敵をあらぬ方向に飛ばしてしまってゾロの邪魔をしたのがわかったけど、まあゾロだからいいか。おれのこの、繊細な心が死ぬほど痛め付けられているんだから、広い心で許せ。
「……どうしてそういうことを言うんですか、レディ、おれは本当に、……軽口だと思われてるかもしれないけど、レディに嘘なんてついたことなくて、いつもかわいくて、きれいで、」
「そういうことじゃないの」
「……本気なんだよ」
どうして信じてくれないんだろう、なんて、日頃の行いを考えれば当然で。だけど本当に本気なのに。どうしたら信じてもらえるのか分からなくて唇を噛む。
「……そういうことじゃないったら。……どんな香りがするの?って聞いたらね、セクシーな匂いだって。でも今日つけてるのはかわいい感じの匂いなの。まあなんでもセクシーだと思っちゃう人もいるだろうけど」
手首をほんの少し持ち上げて鼻に届いた香りは確かにレディの愛らしさを引き出すタイプの香りで。確かにレディはいつだってセクシーで魅力的でかわいらしい。だけど口説くにしてもあまりにも見当違いなことを言うクソ野郎にも、それなのにその男と機嫌良く会話を続けていたレディの気持ちも分からなくて思考がぐるぐると巡る。
「だからセクシーって?ってちょっと深追いして聞いたら、タバコを嗜む大人の女性の匂いだって言われたから」
頭を持ち上げておれの耳元でこっそり呟いたレディに思わず足が止まる。その隙におれの周りに集まってきた海軍達をレディに近づけさせる前に慌てて薙ぎ払って、ぽかんとレディを見下ろした。
「私は吸わないのにそういうこと言われるってことは、これ、サンジくんの匂いでしょう? って言っても自分の匂いはわからないだろうけど。でもその言葉を聞いて気分が良くなったの。意味、わかる?」
耳元から唇を遠ざけてばちんと視線が絡む。レディの表情は、欲目を抜いても有り余るほどあの男と話してたとき以上に機嫌が良くて、言われた言葉とその表情にボッと体に火がついてしまったかのような錯覚に陥る。
「サンジくんの匂いが移るほど、サンジくんと一緒にいるってことが嬉しくて、つい長話しちゃった」
んふふ。また楽しそうに笑うレディにドッドッドッと心臓がありえないほど早く動いて、それを誤魔化すようにさっき蹴飛ばした海軍達が起き上がったのを見てもう一度一掃した。
2021/08/20
2021/08/19分のお題リベンジ「欲しいだけあげる・移り香は如何ですか・希望はいつかなくなると知っていた 」