知らない記憶


大型ショッピングモールで買い込んだ服は全て配送の手続きを取った。来月の請求がきっと恐ろしいだろう。制服のある中高生とは違い、大学生は大変なのだ。せめて1週間分の服は必ず買わなければならないし、着こなしもアレンジできるように――などと考えて居たら持てないくらいの量になってしまった。
「すみません安室さん、お待たせしてしまって…。」
「いえ、大丈夫です。あとはパソコンですか?当日持ち帰れると良いのですが…。」
「そうですね――…すっかり消えてしまったレポートを書き直さなければ…はぁ、気が重い。あんまりお母さんたちにお金の負担掛けたくないし、バイトしようかなぁ…。」
パンプスのサイズを合わせながら彼女はぼやく。元々バイトをして一人暮らしをする予定だったが、日本に移住する際どうしても家賃と食費は払わせてほしい――と母親から切にお願いされた。今まで甘えていたが、この際独り立ちするのも悪くないかもしれない。
「…あの、気を悪くさせたら申し訳ないんですけど、ご両親とは不仲で?」
「へ?いやいや、母の娘溺愛っぷりは凄いですよ…。いまだに私の事小鳥ちゃんって呼んでくるし…。どちらかと言えば父親の方ですね、うち再婚なんで――…お互い、他人であることに引け目を感じてしまってるのかも。とは言っても、実の父親の顔は知らないんですけどね。私が生まれてすぐ死んじゃったみたいなので。」
「いきなり家族、とはいかないでしょうからね…。っと、小鳥さん危ないですよ。」
すれ違いざまにぶつかりそうになり、安室に腕を引かれる。すみません――と告げると、安室は不思議そうな顔で首を傾げた。

「先ほどから気になっていたんですが、小鳥さんもしかして――…右目、見えてないですか?」
「はい、生まれつき…結構不便なんですよね、3D映画とか見れないし。
お母さん曰く、幼児期に手術したけど戻らなかったそうです。」
小鳥が指さした目元をよく見ると、かなり薄くなっているが手術痕が残っていた。彼女にとっては日常生活よりも3D映画が見れない事が不満のようで、頬を膨らませる。
「(父親の顔も分からない娘が――…果たして彼の盗んだ情報の隠し場所を知っているのか?)」
昨日、ベルモットに言われた言葉が安室の脳裏を駆け巡る。身一つでやってきた彼女は財布と携帯、多少の教材しか持ち合わせていなかった。大事なものならば、アメリカの実家に置いている筈も無いし、焼けて困った様子などもない。仮に場所は知っていても、鍵など持っていないのではないか?色々な考えが頭を巡った。
「安室さん、どうかしましたか?」
「え?いえ…なんでもないです。それより、パソコンと夕飯の材料を買って帰りましょうか。小鳥さん、アレルギーや嫌いな食べ物があったら教えてくださいね。それと勿論、好きな食べ物も。」

急いでも結果は出ない、幸い彼女は安室を警戒していない。
これを逆手に取り、うまく取り入ることで情報を探ろうと安室は決意した。
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