家族の肖像


物心ついた時、父は既にいなかった。友達は皆「お父さん」がいるのに、私にはいなかった。ある日、お母さんにお父さんの写真が見たいとせがんだ。あれが、私の最初で最後の我儘だったと思う。――結局、写真は1枚も残っていなくて、お母さんは泣きながら私に謝った。父の日が、大嫌いになった。

高校生に上がるころ、私に父親が出来た。とある事故で母と私の命を助けてくれた外科医の先生だ。父の日が、好きになった。それでも、私の中にある気持ちに整理がつかなくて、彼を「お父さん」と呼ぶことが出来ずにいた。
「俺は、小鳥に愛されていないのかも知れない」不安そうな彼の言葉を聞いて、私は逃げるように家を出た。


窓から差し込む日差しがまぶしい。彼女はゆっくりと瞼を開ける。リビングから心地よい包丁の音が聞こえた。机の上に散らかった教材と、ついたままのパソコンが昨夜寝落ちしたという事実を表していた。昨日届いた服に袖を通し、適当に髪の毛を束ねると彼女はリビングへと向かう。
「おはようございます、小鳥さん。」
「おはようございます、安室さん。わ、フレンチトースト!」
「はい、グラノーラのシーザーサラダも冷蔵庫にありますので沢山食べてくださいね。」
「凄い…安室さんお母さんみたいです。誰かとご飯を食べるのって久しぶりなので、少し恥ずかしいです。」
そもそも朝食をとる時間に起きれることは殆んどないのだが、昨日は疲れていた為熟睡し朝はきっちりと起きる事ができた。勿論レポートは終わっていない。
「小鳥さん、今日大学は何時までですか?」
「えっと、今日は夕方ですね4時半頃になります。」
「分かりました。これ、合鍵なので僕が留守なら使ってください。それと――…バイトしませんか?僕のところで。」
小鳥はピタリ、と動きを止めた。脳内で今の言葉を整理する。
やがてゆっくり安室の方へと視線を合わせた。
「バイト?安室さんのところって…まさか探偵の?」
「勿論。あ、給料は出しますよ。お願いするのは資料の整理とか写真を日付順に並べる――とかまあデスクワークですね。」
「いえ、あの…居候させて貰っている身で賃金を頂くわけには…。」
「そうですか?じゃあ、1依頼につき1つ、小鳥さんの欲しいものを買います。
これでどうですか?ちょっと最近忙しいので手伝って貰いたいのですが…。」
「…レポートが終わってからで良ければ。」
眉を下げてじっと見つけてくる安室の表情に負けて、小鳥は頷いた。やはりどうにもこの顔には弱いのだ。
朝食の皿を下げてパンプスを履く。安室の作った料理はとても美味しかった。それはもう、自分の店が持てるほどに――そんな事を思いながら玄関を開け、彼女は1度室内を振り返る。
「行ってきます!」
「はい、行ってらっしゃい!」
久しぶり聞く見送りの言葉が、彼女の心を震わせた。

「(彼女が本当に情報を持っているならば、それを組織に引き渡すよりこちら側に引き込んだ方が良い――…。でも事情を離さずに場所と鍵を突き止めることは出来るのか…?)」
安室は一人自室に戻る。ポケットから携帯を取り出し、少し躊躇った後に通話ボタンを押した。
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