破れた密室
「心配そうな顔ですね…」
「心配にもなりますよ…まさかこんな事件が起こるなんて…」
小鳥はソファーに座って溜息を吐く。その隣では、安室が持って来たパソコンに小鳥の携帯を繋げていた。盗聴されている可能性があるため、今回の作戦の事は口にしないように安室に口止めされている。
「よしっと…やっぱり遠隔操作アプリが入ってた。抹消したのでもう大丈夫ですよ」
「え、でも安室さんが消しちゃったってばれちゃうんじゃ…?」
「いえ、多分ばれるのを見越してるでしょうから…。それにしてもいつ接触したんですかね…」
乗車前、安室に見せて貰った赤井にそっくりな男には、車内で一度も出くわしていない。携帯をどこかに置いてもいないので、気づかないうちにポケットから抜かれていたのだろう。
「ごめんなさい、私…どんくさくて」
しゅん、と俯けば、安室は笑って小鳥の頭を撫でた。
「僕は、組織の動きをいち早く察知して回避する小鳥さんよりも、何も知らずに僕を頼ってくれる小鳥さんの方が好きですよ。前向きなのは良い事ですが、僕に守らせてください」
小鳥は大人しく撫で受け、少し照れくさそうに頬を染めた。と、安室の携帯が振動し、彼は届いたメッセージに目を通す。
「…家族からも特に情報は無し…か。小鳥さん、そろそろ行きますよ?」
「え?もうですか?」
「ええ、先にこの事件を片付けましょう。毛利小五郎の推理ショーです」
小五郎とコナンは、8号車の乗客たちを廊下に集めていた。全員がそろったところで、コナンは、パシュッ!と腕時計型麻酔銃で小五郎を眠らせた。
「ほみゃ…」
崩れ落ちた小五郎を手際よく椅子に座らせると、椅子の影に隠れ蝶ネクタイ型変声機のダイヤルを合わせる。いつものように小五郎の音声で推理を始めようとしたところで涼しげな声が響いた。
「毛利先生がそのポーズをされたと言うことは…解けたんですね?この一等車のB室でチェーンロックをかけられた状態で室橋さんが射殺されたと言う…密室殺人の真相が…」
背後から姿を現したのは、安室と小鳥だった。小鳥は不安そうに、安室の服の裾を掴んでいる。
「あなた誰?」
出波から不審げににらまれ、安室はにこやかに屈託ない笑みを返した。
「毛利先生の一番弟子の安室です!」
「そう…密室殺人…その謎は、出波さんのE室に二度目に訪れたときに解けました…」
「ちょっと何!?私が犯人だって言う訳!?」
いきなり出波が小五郎に食って掛かる。
「まだ犯人とは言っていませんよ…」
と、コナンは冷静に答えた。
「チェーンロックを掛けた扉越しにあなたの部屋の中を見たときに気付いたんです…チェーンロックが掛かっていれば、どんなに覗き込んでも片側のソファーは殆ど見えないってね!…なのにコナンがB室で室橋さんの遺体を見つけたとき、ロックが掛かっているにも関わらず右側のソファーが見えたと言っている…。何故だと思いますか?」
「あ、あの坊やが見間違えたんじゃないの?」
うろたえた声を出す出波の代わりに、安室が自信満々に言った。
「それは恐らく…チェーンロックの鎖の数が、他の部屋より一つ多かったからじゃないですか?その分、扉の隙間が広がり扉越しに見える範囲も広かったんですよ!」
「鎖が一つ増えたからって何か問題があるのかね?」
「あ、えっと…チェーンロックは通常掛かった状態で外から扉に手を入れても外せない、ぎりぎりの長さに設定されているんです…それが鎖一つ分長かったとしたら、部屋を出た後でも手を入れればロックを掛けることが可能になってしまいます…」
小鳥がそう言えば、車掌はB室のチェーンロックの数を確認し「た、確かに6つです!」と慌てた様子で戻って来た。
「他の部屋は鎖が5つなのに…この部屋だけ切れた鎖を入れると6つになっています」
「これで密室は破れましたね…」
安室は腕を組むと、満足気にそう笑った。
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