8号車の乗客


一方、コナン、小五郎、世良は改めて8号車の乗客の元を訪ねていた。彼らは5年前の火事の被害者たちなのでは無いかと言う前提のもと、再び証言を求める。今度は部屋番号のアルファベット順に回ることにして、まずA室の能登を訪ねた。5年前の火事について聞くと、能登は「それが私とどんな関係があるというんだね?」と言葉を濁した。
「しらばっくれても無駄ですよ…さっき事件のあった静岡県警に電話して確認しましたから…救助者の中に貴方の名前があるのを…そうでしょ?元自衛官で火事で亡くなった資産家と剣友だった能登泰策さん?」
小五郎に問い詰められ、能登はしぶしぶと言った様子で認めた。
「あ、ああ…。この頬の傷もその時負ったものだが…別に隠していたわけじゃ…」
「そー言えば、貴方なにか大きい荷物を持っていましたよね?あの中に密室トリックの道具が入ってたんじゃないですか?」
「あ、あれはただの竹刀だよ!ホラ!この後、名古屋の友人と手合わせする約束をしていたんだよ!」
そう言って能登は、部屋から竹刀の入ったバックを持ってきて、中身を小五郎に見せた。
「じゃあちょっと廊下を走ってみてくれる?」
コナンに言われ、「走る?」と能登は怪訝そうな顔をする。
「僕たち、犯人が走り去る後ろ姿を見たかもしれないから…おじさんが走るトコ、ムービーに取らせてくれないかなぁ?」

能登が走る様子を動画に収め、次にコナンたちが向かったのは安藤のいるC室だ。安藤は意外なほどあっさりと自分が火事の被害者であることを認めた。
「いかにも…私はあの火事で室橋さんと一緒に救助された安藤ですが…それは聞かれなかったから言わなかっただけで…」
「それより、部屋の中にある大きな黒いカバンは何なんだ?」
世良が安藤の部屋を覗き込んで聞く。
「あれは鑑定を依頼された絵ですよ。残念ながら贋作でしたけど…」
安藤の了承を得て、絵を手に取った小五郎は「かなり重いな…」と眉をひそめた。
「額縁が純金なので…」
「ちなみに、家事で亡くなった資産家とはどういう関係で?」
「あの方は名画コレクターでしたので、数多くの絵画を紹介させて頂きました…その殆どが火事で焼けてしまいましたが…」
「でも、こんな重い物を一人で運ぶなんて、おじさん体力あるんだね!」
額縁を手に取ってコナンが屈託なく言う。
「ま、まあ…」
コナンは、能登と同じ様に安藤にも「じゃあちょっと廊下を走ってみてよ!」と頼み、その姿を動画に撮影した。

安藤の部屋の隣はD室。小蓑と住友が居る部屋だ。
「ええ…あの火事のことは忘れられませんわ…」
火事の事を聞くと、小蓑は暗い声でそう答えた。
「あの火事の所為でこの車いすの世話になっているのですから…」
「ホーーー…では火事で脚に怪我を…」
「ですから、他の皆さんのように廊下を走るなんて私には…」
「でも、メイドの住友さんなら走れるよね?」
コナンに言われ、住友は「は、走ればいいんですね?」と、戸惑いながらも廊下を走ってみせた。
「ねぇ!メイドさん結構走るの速いけど、何かスポーツやってたの?」
キセルに火をつけていた小蓑にコナンが聞く。しかし、小蓑からの返答はなかった。
「ねぇ答えてよ…おばあさん?」
コナンに畳みかけられても、小蓑は答えず沈黙していた。

最後に尋ねたのはE室の出波の部屋だ。出波はすっかり警戒していてチェーンロックを外してくれすらしなかった。
「はぁ?確かに私はあの火事で亡くなった大金持ちのお孫さんの婚約者で…あの業火の中助け出されたのも事実だけど…だからってなんで廊下を走らなきゃいけないわけ?」
出波はとげとげしい口調で、小さく開いた扉の影から小五郎を睨み付けた。
「そう言えば、部屋で見つけたって言う腕時計…あれからなったりしたか?」
世良に聞かれ、出波は部屋の中へと視線をやった。
「見ての通り、置きっぱなしにしてるけど鳴って無いわよ」
「え?どこ?」
と、コナンが首をかしげる。
「ホラ!ソファーの上に置いてあるでしょ?」
出波が指さすが、身長の低いコナンは、チェーンロックのわずかな隙間からソファーを見ることは出来なかった。
(あれ?待てよ…室橋さんの遺体を見つけたときは見えたよな?扉の隙間から…向かいのソファーの弾痕が…)

出波を何とかなだめすかして廊下を走って貰い、これで小蓑をのぞいた8号車の乗客四人全員の走る姿を撮影することが出来た。
「取り敢えず、撮ったムービーを子供たちに見せてくるよ!」
携帯電話を持った世良が、7号車へと走っていく。そんな世良の姿を、小さく開いた扉の隙間から安室が覗いていた。
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