小五郎の推理
密室のカラクリは明らかになった。しかし犯人は、B室の鎖を一つ増やす作業をいつ行ったのだろうか。
「でも、戸口で誰かがゴソゴソやってたら、車掌さんが気づくんじゃありません?」
住友が、ずっと廊下に居たはずの車掌をちらりと見やる。
「扉越しにこっちをチラチラと覗いていた人は見たんですが…」
車掌の答えに、能登が「おい!そいつは誰なんだ!?」と、食ってかかった。
「遠くてよく見えなくて…トンネル内で薄暗かったですし…」
「じゃあ犯人はその人で、別の車両に逃げてしまったんですよ!」
安藤が断じると、「確かに外部犯かも…」と出波も同意した。
「私たちと顔見知りの車掌が廊下に居たのに、見られるリスクを背負ってそんな犯行をする人はこの一等車には居ないでしょう…」
「だがそのリスク、この音で解消されるとしたらどうですか?」
コナンが言うと同時に、リンリン、リンリン、とどこからともなく鈴のような音が聞こえてきた。
「こ、これは呼び鈴の音…」
音の出所を探して、皆がキョロキョロと車両の中を見回す。すると、コナンが「僕だよ!」とひょっこり姿を現した。手には、スマートフォンを持っている。
「さっきB室のベルを鳴らして携帯に録音した音を再生したんだよ!車掌さんはこの音がしたにどの部屋もランプが点いていないからA室に行ったんだよね?」
「ああ…A室のランプの電球が切れていて『呼んでるのに何で来ない?』って能登さんに怒られてたから…てっきり呼んでるのは能登さんだと思って」
「それでA室の能登さんと車掌さんが言い争ってる様子を、B室の室橋さんが扉を開けて覗いてたんでしょう?」
「あ、ああ…だれかと電話をしながら…」
「なるほど…」
安室が低い声で呟いた。
「その時ですね?犯人がB室に入ったのは…。この列車の廊下は部屋の扉を開けたらほぼ塞がれるくらい狭い…。B室の扉が開いてたらその扉の向こうからやってくる犯人の姿は、ベルの音でA室に来させた車掌さんからは見えませんから…」
「ええ…犯人が電話で室橋さんに『部屋の外が騒がしいけど何かあったのか』とでも言ったんでしょう…。しかもそれはトンネル内での出来事…犯人は列車がトンネルに入る直前に室橋さんに電話し、部屋の外の様子を伺わせれば…その最中に電話相手の犯人が部屋を出てB室に近づいてきても…トンネルに入って通話できなくなったから話の続きは部屋の中でと言う状況にもなりますしね」
この推理に基づけば、A室の能登は犯人ではないという事になる。真っ先に容疑者から外れた能登は、ほっとした様子で「しかし犯人は室橋さんと何の話を?」と聞いた。
「毎年このミステリートレイン内で行われている推理クイズの相談ですよ…。犯人は偽の指示カードで室橋さんが被害者役、犯人が犯人役、そしてこの一等車のB室に居た私の娘たちが共犯者役に選ばれたと偽り…死体消失のトリックの為だからと言って部屋を好感させてますので…」
乗車前、室橋は自分の予約した客室が変更になったと不満を漏らしていた。このトリックは、一等車のB室に室橋が居なければ成立しない。だから犯人は、あの指示カードを出して園子達と室橋に部屋を交換させ、室橋を8号車のB室で待機させたのだろう。
「それで?犯人が室橋さんを移動させたB室に入ったところまでは分かったが…いつ出てきたんだね?」
能登が小五郎に聞く。
「そうよ!B室に入った直後に殺してすぐ部屋から出たんなら…A室の前に居た車掌が見てるはずよね?」
「でも見て居ない…。となると怪しいのは、やはり車掌さんが見た扉越しに覗いていた人物ですね…」
出波と安藤も口々に小五郎に詰め寄った。
「あの、車掌さん…それ、どこの扉ですか?」
小鳥が首を傾げて車掌に聞く。
「廊下の一番向こうの扉でした…。E室の前に居るときに見ましたから、能登さんのA室だったかと…」
「おいおい、いい加減な事を言うんじゃないよ!」
不審人物にされそうになって、能登が慌てた声を上げる。
「その、のぞいていた不審人物の正体なら分かりますよ…」
「え?」と能登がつぶやいて、小五郎を見る。コナンは、不審な人影の正体を告げた。
「それは車掌さん…あんただよ!!」
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