暴かれた犯行


「ぼ、僕が不審人物!?犯人なんですかぁ!?」
車掌は自分の事を指さし、目をむくと、安室が「いや…」と冷静に口を挟んだ。
「車掌さんが見たのはE室の扉とその前に居た自分自身の姿…鏡ですね?」
「その通り!犯人は自分の部屋の扉の内側全体に鏡を貼っておき…車掌さんが出波さんに呼ばれてE室の前に居るときにその扉を開け…犯行を終えてB室から出てくる自分の姿を見えないようにしたんだ…」
コナンが言うと、出波が困惑したように聞いた。
「で、でも犯人はその時、B室にいたんならどうやって自分の部屋の扉を開けたのよ?」
「扉のノブに釣り糸を結んで廊下の窓ガラスの手すりに通し…それをB室に引き込んで頃合いを見て引っ張り開けたんです」
コナンの答えに皆が納得する。確かに、自分の部屋のノブに釣り糸を結んでおけば、B室に居ながらにして、自分の部屋の扉を開けることができる。しかし、鏡の反射を利用して車掌の目を欺くこのトリックは、車掌と犯人の部屋との位置関係が何よりも重要になるはずだ。
「そう…このトリックは鏡の位置が遠くても近くてもバレてしまう…。となるとABCDEとある部屋のちょうど真ん中のC室の乗客である…安藤さん…あなたにしかできないんですよ!」
コナンに名指しされ、安藤の身体がびくりと震えた。



C室の安藤がこの事件の真犯人――…。自身のトリックを江戸川コナンに解き明かされた安藤は、暫く唇を噛んで呆然としていたが、やがて我に返ったように反論した。
「か、鏡って…扉を覆えるような大きな鏡をどうやって私がこの列車内に持ち込んだっていうんですか!?」
「あなたが鑑定を依頼されたという絵…あの絵のカンバスとカンバスの間に鏡を3枚ほど仕込んでいれば…ちょうどこの扉を覆えそうですが…。あの絵、かなり重かったですし…」
「あ、あれは額が純金で…」
「いや…額は木製で金メッキ…重いのは絵の方…」
しどろもどろに言い訳しようとした安藤を遮って、安室が告げた。いつの間に安藤の部屋に入ったのか、例の絵を持っている。
「ちょ、あ…安室さん…」
小鳥が止めようとするも、「大丈夫ですよ」と笑顔で答え、手袋をはめた手で手際よく絵を額縁から外した。それから、鋲止めを一つずつ外して、カンバスから布地を取り去る。すると、本来木枠があるはずの場所から現れたのは別の物だった。
「中身は先生の言う通り…3枚の鏡!」
三枚の内1枚の鏡の中心辺りに、ベージュ色の絵の具がぽつりと円形に塗られている。
「その一枚に扉と同じベージュの絵の具が塗ってあるところを見ると…鏡だと気づかせないために工夫したようですね…。そのままだとE室の表示が鏡に映り込んでしまいますから…」
トリックは全て解けた。言葉を失い立ち尽くす安藤に、コナンがたたみかける。
「さあ、その3枚の鏡…どう説明されますか?まさか鑑定前から仕込まれていたもので、絵の異様な重さに気付かなかったなんて言わないでくださいよ?なんならその絵の鑑定を依頼してきたクライアントに聞いてもいい…そんな人が本当にいればの話ですがね?」
安藤は反論のすべもなく、がっくりとうなだれた。車掌が話していた、一着足りなくなっていた制服。あれを盗んだのも安藤だったのだろう。その制服を着て乗車前の点検に紛れ込めば、犯行現場のB室のチェーンロックの鎖を一つ増やすことも、A室のランプを電球が切れたものと交換することも、リモコンでアラームが鳴る腕時計を出波のE室に隠すことも可能である。安藤は、その鏡張りの扉を一気に閉めて出波たちに近づいて行った。そうすることで、車掌がずっと廊下に居たにも関わらず、犯行現場のB室に出入りした人物を誰も目撃していないという状況が出来上がったのだ。
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