ミッションスタート


コナンと安室が、事件の真相を白日の下に晒していたその頃――…。別の車両では、赤井秀一の顔をした男が、トランクケースを窓の外に蹴り出していた。走る列車の窓から飛び出したトランクは、地面で数度バウンドして直ぐに見えなくなった。
「あら、随分じゃない?」
背後から声を掛けられ、男が振り返る。そこに立っていたのは、工藤新一の母、工藤有希子だった。
「お気に入りだったのよ?あのトランクに入れてたワンピ…」
トランクを捨てる現場を見られたにも関わらず、男は特に慌てた様子もなく、自分の顔の皮膚に手を掛けた。ピッと何かが破けるような音がする。
「ねぇ…もうこんなことやめたら?シャロン?」
有希子の言葉通り――赤井秀一のマスクの下から現れた顔は、シャロン・ヴィンヤードのものだった。


8号車で行われていたコナンと安室による推理ショーは、幕引き間近だった。推理に追い詰められ、言い逃れのすべを無くした安藤は、呆けたように俯いて立ち尽くしていた。
「でも、どうして安藤さんが室橋さんを?」
「5年前の大火事で共に助け出された仲だったんじゃ…」
出波と能登が、訳が分からないという顔で安藤を見る。
「ええ…2年前まではそう思っていましたよ…」
安藤は絞り出すように答えた。
「絵画のオークションに、あの火事で焼失した筈の絵が出品されるまではね…。その絵の持ち主を遡って調べたら、最後に室橋の名にたどり着いたと言う訳ですよ…」
「成程、室橋さんは屋敷から絵を盗み…盗まれた事を隠すために屋敷に火を放ったんですね?大勢の被害者を巻き込んで…」
察しのいい安室の言葉に、安東が「ええ…」と頷く。
「室橋は殺される前に言っていました…あんなに死人が出ると思わなかったってね…。あの男がもしも我々と同じく火事で亡くなった方々を…このベルツリー急行の一等車に乗るはずだったあの一家を弔うために毎年乗車していたのなら…自首を勧めるつもりでした…」
「でも、そうじゃ無かった…」
小鳥がそう言うと、安東の瞳にうっすら涙が浮かんだ。
「偽の推理クイズの被害者役を持ち掛け、探偵役の子供たちを待っている時…あの男…こう言ったんですよ!『やっぱこういうのは興奮するなぁ!生きてるって実感できるって言うか…煙に巻かれて命からがら救出されたあの火事を思い出さないか?』って…頬を紅潮させ…嬉々としてそう言ったんですよ!!あの火事で私の妻が…煙に巻かれて死んだっていうのに…」
言葉を詰まらせた安東の目から、とうとう涙があふれた。
「だから…私は…」
「安東さん…あとは警察で…」
安東の肩を、同情した面持ちで能登が抱く。その時、B室から大量の煙が廊下に溢れてきた。
「ちょ、ちょっと何なのこの煙!」
煙に気付いた出波が不安そうな声を上げる。B室の扉を開けた安室は「か、火事!?」とすかさず叫んだ。
「火事だ!!みなさん、前の車両に避難してください!!」
安室に煽られて乗客たちはパニックになり、悲鳴を上げながら我先にと前方の車両へ走っていった。
「車掌さんはこのことを…前の車両のお客さんに!」
急かされた車掌は、慌てたように前方へと走っていく。その後ろ姿を見て、安室は怪しく微笑んだ。
「お見事です、安室さん。俳優になれますよ」
「うまくいくかちょっとドキドキしました…。それじゃあ僕はこれからバーボンの仕事をしに行きます…。小鳥さんはコナンくんと一緒に居てくださいね?コナンくん、頼んだよ」
「うん、任せて」
コナンは力強く頷く。作戦内容は大体聞いていたが、灰原の件について小鳥は詳しく聞いていない。
「ね、ねえ…でも、どうやって哀ちゃんの代りを?哀ちゃんに解毒薬持たせてないんでしょ?」
「ああ、博士に頼んでこっそりすり替えて貰ったからな。ま、その代わりは…こいつで何とかするさ!」
高校生のような笑みを浮かべたコナンは、8号車に残る小蓑と住友を振り返った。
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