終幕


「小鳥さん…?」
後ろから声を掛けられ振り返れば、安室透が立っていた。頬に少し煤がついているが、爆発は上手くかわせたようだ。
「安室さん…良かった、無事で…」
「僕は五体満足ですけど…貴女なんて格好してるんですか?こんなに胸元露にして…って言うかどこに何を入れてるんですか…!」
「へ、部屋に上着あるから降りる前にちゃんと…えっとこれ、ベルモットが…」
胸元に押し込まれたのはUSBだった。真っ黒なそれを取り出して小鳥は「なにこれ?」と首を傾げる。
「ベルモット?なにもされなかったですか?」
「はい…『アラックからの預かりもの』って」
「アラックって…貴女の父親で組織へ潜入していたCIA捜査官…何故そんなものを練るモットが…。まあ、その中身は後で確認するとして、とりあえず下車しましょう。いつまでも残るのはまずいですから」
安室に促されるまま立ち上がり、二人はベルツリー急行を後にした。



「それで、どうして怪盗キッドが住友さんに変装してるって分かったの?」
「ああ、それは…小蓑さん、ベールで顔を隠してたけど俺は今背が低いから口元見えててさ、腹話術だなってのが分かったから。そんな事するの、変装して乗車するキッドだけだろ?」
小鳥の淹れたアイスコーヒーを飲みながらコナンは説明する。車いすの小蓑を選んだのは、一等車の廊下の幅や長さを車輪の回転具合で測れるからだろう。
「それより、安室さんは?」
「ああ…」
コナンに聞かれ、小鳥は横目で安室の部屋を見た。
「帰って来てから調子が悪いってずっと部屋に…心配なんだけど、声を掛けても返事が無くて。やっぱり車内で何かあったみたい」
「ふーん…。コーヒー有難う!蘭が心配するから俺もう帰るよ!お前は安室さんの傍にいてやれよな!」
「あ、うん…。またね!」
玄関を出ていくコナンを見送り、小鳥は重いため息をついた。


「楠田陸道は車の中で自殺…一ミリに満たない飛沫血痕という事は拳銃か…」
安室は自分の部屋の中でパソコンに目を通す。そこには警察組織の限られた人物しか閲覧できないデータベースが表示されていた。
「キールが首につけていた隠しカメラで撮った映像…赤井は確かに頭を打たれて殺された。一見な――。拳銃で頭を打ち抜いた場合弾痕はたとえ焼かれたとしても頭蓋骨に残る。赤井が楠田の遺体とすり替わったって事も考えられるワケか…」
米花町には天才発明家のアガサが住んでいることも、彼の発明の中で声を変えることのできるチョーカー型変声機が最近販売を取りやめたことも調査済だ。赤井の死にコナンが関係しているのであれば、来葉峠の事件の後、コナンの傍に現れた人物を探れば簡単に居場所が掴めるはずだ。となればコナンの周りを探るしかない。安室はパソコンを閉じると天井を見上げた。長い息を吐き、椅子を立ち上がる。何か飲み物でも、と部屋のドアを開けようとしたとき、不自然な重みに首を傾げる。
「…小鳥」
扉を背に寝息を立てている小鳥を支え、抱き上げる。そのまま彼女の部屋へ運び、ベッドへと寝かせた。
「もし俺が復讐に駆られて自我を失ってしまったら、その時は小鳥…君が止めてくれ」
安室――降谷はそう、小さく呟くと、彼女の唇へとキスを落とした。
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