本当の自分


「えっと、つまり安室さんは警察官で、潜入捜査官として組織の調査をしているって事ですか?それで、本名が降谷零さん…。」
「そうです、理解が早いですね小鳥さんは。」
「…それで、私は以前組織に潜入していたアメリカのCIA捜査官の娘なんですね…。バーボンとして私から情報を引き出す任務を受けた安室さんは、それを逆手にとって組織から私を保護してくれてたなんて…理解はしますけどどうにも想像が追い付かない…。組織の事は知ってましたけど、なるべく関わりたくなかったのに…。」
まさかとんでもなく関わっていたなんて――と小鳥は頭を抱えた。それと同時に、安室が自身の父親殺害に無関係であることに胸を撫でおろす。
「それで、改めて聞きたいのですが…、父親が残したデータの在処、知っているか?」
安室の声が低くなる。これが「降谷零」の姿だと実感すれば、何故か胸がざわついた。
「すみません…全く。先ほど電話で母にも聞きましたが、父が残したものは私以外無い、と。」
「そうか…。いや、待てよ…、小鳥、右目の手術をした時、父親はまだ生きていたんだよな?」
「え?ええ、手術を受けさせたのは父ですから…それが何か?あの、安室さ…」
安室は小鳥の顔を両手で掴むと、彼女の右目をじっと見つめた。少し色素の薄い右目は、今思えば不自然だ。そこで彼はひとつの仮説にたどり着いた。
「…網膜認証…。小鳥自体が、隠し場所を開ける鍵、なんじゃないか?潜入捜査官が危険を犯してまで家族に会って手術を受けさせたんだ。何か理由がある筈だし…そうすれば辻褄が合う。」
「私が…?か、仮にそうだったとしても隠し場所は誰も知らない…。」
そんな本当にあるかどうか不鮮明なものを見つけるのは無理だ、と小鳥は言う。だが安室は首を横に振った。
「本当に無いならば、無い事を証明しない限り組織は貴女を追い求める――…。」
「それじゃぁ、私はどうすれば良いんですか?」
「出来る限り俺の傍にいてください。俺か、俺の仲間が貴女を組織の手から守ります。
今回の事があるから信用できないかも知れないですが…」
口ごもるように安室は言った。
「こ、今回誘拐されたのは私の不注意なので安室さんが気に病むことではありません。それに私の所為で安室さんが大けがを…なんか、本当に申し訳なくて…。」
情けなくて涙が零れた。安室に見られないよう慌てて拭うと、病室の扉ががらりと開く。
「降谷くん、この発砲詳細の書類なんだけど…あれ?あ、お邪魔だった?」
「ちょ、長官!そこ、そこのデスクの上に…あいたたた!」
「だ、大丈夫ですか!?」
突然の事に涙も引っ込み、安室を大人しくベッドに寝かせ、代わりに書類を受け取る。
機密事項らしく青い封筒に入れられていて中身の見えないそれをデスクの引き出しにしまった。入ってきた男は警察庁の長官で、降谷の上司にあたる。彼は神原明治と名乗った。
「さて、我々の事情を知ってしまった彼女を組織の手に渡すわけにはいかない。これからの事、心して取り掛かるようにな。それと――…これは私の番号だ。降谷くんから離れて行動するときは必ず連絡をくれ。我々公安が陰ながら君の護衛をしよう。」
「分かりました…。有難うございます。」
神原を見送り病室に戻ると、疲れてしまったのか安室はすやすやと眠っていた。小鳥は再び椅子に腰かけると、彼の寝顔をじっと見つめる。
「…本当の自分に早く戻れる日が来ると良いですね、降谷さん。」
彼女のつぶやきは誰にも聞かれること無く宙に消えた――。
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