手の届く距離


「オメー、なんで最近警察病院に通ってんだ?」
ぎくり、と小鳥の背中を冷や汗が伝う。どうにも洞察力の優れた幼馴染だ、小さなことが気になってしまうのが君の悪い癖――某刑事ドラマをもじりながらそう思い、彼女は膝を曲げて視線を合わせた。
「し、知り合いがねあそこに入院してて…なんか事件に関わっちゃったみたいで事情聴取を受けてるの。落ち込んでるから毎日こうしてゼリーの差し入れに…。」
「…もしかして安室さんか?怪我して暫く動けないから休ませて欲しいって連絡が梓さんの所に来たって心配してたぞ。」
「あ、なんだ知ってたのか〜…。大丈夫だよ、もうすぐ退院できるから。」
出来る、と言うか強引に退院することに彼が手を回したのは内緒である。コナンと別れた小鳥は、ため息を吐きながら病院へと向かった。

病室の扉をノックすると、風見が顔をだす。そのまま入れ替わるように室内へと招かれた。安室は難しい顔で資料を睨んでいる。
「あむ、…じゃなかった降谷さん、駄目じゃ無いですかちゃんと寝てないと。」
「おや、お帰りなさい。もう大丈夫ですよ――…それに溜まった書類を片付けないと…。」
ちらり、とデスクに目をやれば、初めて病室に来た時よりかなり紙の束が増えていた。小鳥はうわ…と小さく声を漏らすが、手伝う事は出来ないので大人しく椅子に腰かけた。
「ゼリー、冷蔵庫に仕舞っておきますね。落ち着いたら食べてください。」
「いつもありがとうございます。そう言えば小鳥さん、大学にも数人部下を忍ばせてますが気づきました?」
「え!?いえ、全く…。そっか、そう言えばそうだった…。」
「その様子ですと他の生徒にもバレる心配はなさそうですね。」
「う…鈍くてすみません。」
思わずそう零すと安室が笑う。小鳥は恥ずかしくなって両手で顔を覆った。暫く他愛ない話をしていれば、デスクの上に置いてあった黒いケータイが着信を告げる。安室は神妙な顔でそれを手に取り、小鳥の方を見て、唇に人差し指を添えた。
「もしもし、僕ですけど。」
『ハァイ、バーボン。最近姿が見えないけど、どうしたのかしら?キティから情報は盗めたの?』
「ベルモット――…すみません、実は探偵業の方で少しひと悶着ありまして今は病院に。
それと彼女なんですけど、恐らく何も知りません。そもそも、生まれて直ぐに死んだ父親が隠した情報を、何故彼女が知っていると?僕はずっとそれが疑問なのですが。」
『あら、入院?それは災難だったわね。仕方ないじゃない、ラムの指示だもの。
まあ…そうね、私の方からラムに申告しておいてあげる。娘は何も情報を持っていないって。貴方、随分とその娘にお熱のようだし。』
「え?僕が?」
『ええ、彼女の話を出した時、貴方声変わったわよ。女優の耳は誤魔化せないわ。ま、頑張りなさいな、グッドラァック』
リップ音が切れた電話を安室は不思議そうな顔で見つめる。そして不安そうにこちらを見る小鳥と視線が合えば、一気に頬を赤らめ隠すように反対側を向いた。
「降谷さん?どうかしました?」
「い、いや!なんでもない、なんでもないです!」
「なんでもないって、顔真っ赤ですけど。」
「ね、熱です!熱がでました!すみませんが売店で水を買ってきて頂けますか!」
「え!?分かりました!」
慌てて病室を飛び出していく小鳥を見送り、安室は布団へと顔を埋めた。

「…童貞か、おれ。」
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