お互いの好きなもの


「そう言えば、小鳥さんってロールキャベツ好きでしたよね。」
「好きです、大好きです!」
リビングで女性向け雑誌を読んでいた小鳥は、安室の問いかけに嬉しそうな顔をして答えた。ロールキャベツは殆ど好き嫌いしない彼女が特に好んで居るものだ。ちなみに嫌いなものは納豆である。
「昨日買った雑誌に、美味しいロールキャベツの作り方が載っていたので、今夜実践してみましょう。」
「安室さんのご飯はいつも美味しいですよ?って言うか、安室さんもそう言う雑誌って読むんですね…なんか意外です。」
「仕事柄――ですね。雑誌を読んで流行を理解すれば潜入捜査にも役立ちます。案外色々知ってるんですよ、僕。」
「例えば?」
「そうですね…某夢の国や大阪の大きい遊園地など、全国各地に存在するテーマパークのアトラクションをコンプリートして入り口出口全部覚えています。」
「なにそれ凄い!」
彼女の素直な反応を受けながら、安室は笑った。今日は公安の仕事も休み(性格には怪我が感知するまで仕事をするなとのお達し)であり、組織から緊急の任務も入っていない。
加えてポアロのシフトや探偵業の依頼も無かった。珍しい完全オフの日である。大学が休みの小鳥もまた、朝から本を読みふけっていた。
「そう言えば、安室さんの好きな食べ物って聞いた事なかったですよね。何かありますか?」
「うーん…僕は食にこだわりないですからね。しいて言えば…セロリ?」
「セロリ。」
「実を言えば家庭的に料理をし始めたのは小鳥さんが来てからなんですよね。一人の時はオフの日以外忙しくて食事する暇も無くて…もっぱらセロリスティック齧ってました。」
一人だと干物なんですよ、僕、と安室は笑う。確かに家にいるときはほぼスウェットだなぁ…と小鳥はぼんやり思った。
「安室さんの意外な一面が知れて良かったです…。」
「僕はもっと小鳥さんの事知りたいです。」
「え、私の事ですか?うーん、他に安室さんにお話できるようなことあるかな…」
彼女は雑誌を閉じて考え込んだ。通っている大学や家族構成、趣味については全て話したつもりだ。特に秘密にしている事も無いのでこれと言って思い当たらない。
「好きな異性のタイプとか…」
「えっとそれなら、年上で…面倒見が良くて、背が高くて眼鏡の似合う…。」
「眼鏡か、…かけてみるかな。」
「?どうしました、安室さん?安室さんの好みのタイプも教えてくださいよ!」
安室の呟きに、きょとんと首を傾げる小鳥。その頬を安室は指先で撫でた。
「…長い茶色かかった黒髪で、ちょっと天然で。頑張り屋さんでおっぱいの大きい可愛い子。」
安室は妖艶に笑う。その姿に頬を赤らめた彼女は、やがて満面の笑みで微笑んだ。

「安室さんならすぐ虜にできますよ!頑張ってください!」
何のためらいもない彼女の言葉に、安室はきょとんとした表情を見せるも、その後腹筋が痛くなるまで笑った。そして聞こえないくらいの小さい声で呟いた。

「…これは手ごわい。」
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