謎の予告状


昼前の毛利探偵事務所に、依頼主の女性たちが現れた。一人は女優の牧樹里(37)そしてもう一人はマネージャーの矢口真佐代(32)。二人は不安げな面持ちで、小五郎の座るソファーの向かいに並んで座った。
明るい色の外ハネのショートヘアが印象的な樹里は化粧も服装もバッチリきめていて、
女優のオーラを十分に漂わせている。それに比べて真佐代は地味でいかにも裏方の印象だ。樹里はテーブルの上に三つ折りになった一枚の紙を置いた。
「なるほど、これがキッドからの予告状ですか…。拝見します。」
「はい。昨日の朝、自宅のマンションのベランダに大きなバラの花束を添えて置いてあったんです。」
ソファの横のデスクで頬杖をついて居たコナンは話を聞いて思わず苦笑いをした。
「どうしたの?コナンくん。」
「いや…相変わらずキザなヤローだと思ってな。」
「コナンくんは過去にもキッドと対峙したことがあるそうですね?」
「あー…そっか、安室さんはキッドとやり合う機会なんてないもんなぁ…。」
コナン、小鳥、安室の三人がひそひそ話をしていれば、予告状を見た小五郎が「ふむ…」と難しい表情で声を上げる。安室は近くまで行き、後ろから予告状を覗き込んだ。
「romeo…Juliet…victor…bravo!二十六の文字が飛び交う中、『運命の宝石』を頂きに
参上する。怪盗キッド…。それと二つに割れたトランプですか。」
予告状の末尾にはキッドとトランプの絵が描かれていた。トランプはスペードの2で、真ん中から縦に半分に割られている。コナンがデスクから厳しい目で予告状を見つめていると、蘭が樹里たちに珈琲を出した。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
真佐代は礼を言って珈琲を一口飲んだ。小五郎が予告状をテーブルに置き難しい顔をしてソファに凭れて腕を組むと珈琲のカップを持った樹里が一瞬苛立った表情を見せた。真佐代が慌てて「あ、あの…」と声を掛ける。
「いかがでしょう、毛利先生…。」
「そうですなぁ…。」
小五郎は身を乗り出して予告状の文面を指さした。
「この、『運命の宝石』と言うのは?」
「ああ、それならこれの事です。」
樹里はバックの中から宝石ケースを取り出し、テーブルの上で開けて見せた。ケースの中には大きな青いサファイアの指輪が光り輝いていて、一同は息を飲んだ。
「それ、スターサファイアですよね?」
「ええ、良く知ってるわね、お嬢ちゃん。」
「お…お嬢ちゃん…。」
樹里は小鳥を一瞥して満足そうに頷くと、サファイアの表面に浮かび上がる星のような模様に目を向けた。
「この表面に浮かび上がった交差する三本の線が、信頼、希望、運命を表し、『運命の宝石』と呼ばれているんです。」
「なるほど…見事なもんですな。」
「ブルーサファイアをこよなく愛したジョセフィーヌにちなんで、今回の舞台でも使っています。」
「舞台?」
小五郎がきょとんとすると蘭が小五郎の背後に歩み寄って来た。
「私、知ってます!汐留に新しくできた劇場『宇宙』で、今『ジョセフィーヌ』と言う劇をやってらっしゃるんですよね?」
「ジョセフィーヌですか…ナポレオンの最初の王妃でしたよね?バラのコレクターとしても有名な…。」
「(…なるほど、それでバラの花束だったのね。)」
小鳥はキッドが予告状と共にバラを置いて行った意味に気付き隣のコナンを見る。
彼もまた、同じ答えにたどり着いたようで、にやりと笑っていた。
何度か予告状の文面を読み上げた小五郎は突然ハッとする。
「樹里さん。今、あなたがお出になっているその劇場で『ロミオとジュリエット』をやりませんでしたか?」
「ええ…私は出ておりませんが、こけら落としで…それが何か?」
「わかりましたよ!」
「本当ですか?」
コナンと安室が「え」と顔を上げると、小五郎は予告状を机に叩きつけた。
「キッドがよこしたこの予告状には三つのWと一つのH。つまり『誰が(who)、いつ(when)、どこで(where)、どうやって(how)』が示されているのです!」
「なるほど!」
樹里が感心した目で小五郎を見つめる中、コナンは溜息をついた。心配するコナンをよそに、小五郎は自信満々な顔で推理を始める。
「まず<誰が>。これは言うまでもありません、キッドです。次に<どこで>。ロミオとジュリエットが上映した劇場『宇宙』の舞台上です。そして<いつ>。予告状にある『bravo!』のからして観客からの喝采を受けるとき。最後に<どうやって>。『victor』は『征服者』。これはナポレオンの事で、キッドが変装する人物を示します。さらに予告状のトランプ…。」
小五郎は机の上の予告状に目を向けた。
「その二つに割れたトランプは勝利のVサイン。つまり怪盗キッドは、いまあなたが出演している『ジョセフィーヌ』の喝采を受けるまさにその時、ナポレオンの姿で指輪を盗みに現れるのです!」
「ブラボー!毛利さん!さすが名探偵ですわ!」
拍手する樹里に横で真佐代も倣う。ナーハッハッハと高々に笑う小五郎の横でコナンは予告状を手に取った。

「…どうしました、小鳥さん?」
「二十六の文字の謎が解けてないのと…私あの牧樹里って人嫌い。」
「ふふっ…確かに、貴女とは合わないでしょうね…。」
樹里に視線を向けながら頬を膨らませる彼女の頭を撫で、安室は笑った。
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