事件のはじまり


加門初音が席を立ち1時間以上が経過した。
新郎の伴場頼太はと言うと、独身最後の夜を楽しむように次々と女性に声を掛けている。この場に蘭がいれば「誰かさんにそっくり」と苦言を漏らしている事だろう。
「あの、お客様…先ほどからお電話が…。」
例のウエイターの声がして、小鳥はそちらを振り返る。この騒ぎの中、携帯の着信に気付くなど、彼は余程耳が良いらしい。連絡はどうやら加門初音からのものだったようだ。
「電話に出ないから写メでお披露目…30分後にご覧あれ…何よもう!ラブラブじゃない!ご馳走さま!」
「ま、まあな!…悪い、ちょっとトイレ!」
伴場はもう一つの携帯への着信に気付き、そのままトイレへと向かう。
「(二つ目の携帯…怖い顔で誰かと話してる。あれ?トイレに入る前にすぐ切っちまった…――って事は、電話の相手はトイレの中か。)」
「…ねえちょっと新一君、どうしたの?知ってる人でも居た?」
「え?い、いや…なんでもねーけど…。ねえ小五郎のおじさん、これって高校の同窓会も兼ねてるんだよね?あのおじさんも高校の同級生?」
コナンは小五郎の袖を引き、先ほどトイレから出て来たサングラスの男性を指さした。
「ん〜?覚えてねえなぁ…なにしろ20年ぶりだからよ。」
「…あの人おじさまより年上に見えるけどなぁ。あ、あのウエイターさん、また伴場さんに怒られてるよ、あの人ちょっと飲みすぎ…って、」

パリンッと大きな音が突如響き、小鳥は思わず目を瞑る。
酔っぱらった伴場が先ほどのウエイターに殴りかかったのだ。
それを避けようとしたウエイターの手から滑り落ちたコップが粉々に割れた。
「大丈夫ですか?」
「伴場君、飲みすぎよ!ほら、血が出てるじゃない!手当しないと…って、伴場君話聞いてる!?」
心配する同窓生の声をよそに、伴場は自分の携帯を取り出す。
「俺が今話があんのは…初音だけだ。おう、初音か?今どこだ?ん?サヨナラ?な、なに言ってんだ初音、おい初音!?」
焦ったような伴場の声に被せるように、窓の外から爆発音が響く。
驚いてそちらに目を向ければ、車が大きな音を立てて燃えていた。
「ま、まさかあの車…」
「は、初音の…」

「小鳥!消防と警察に連絡だ!あぶねえから誰も店から出すなよ!」
「は、はい!」
外へ飛び出していく小五郎とコナンの背中を見送り、小鳥は携帯を取り出した。
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