犯人と動機
一同が「え」と驚いた顔で一斉になつきを見た。なつきも一瞬目を丸くしたが、すぐにアハハと笑いだす。
「ありえないわ!そりゃ、推理としては面白いけど…」
「貴女、ファンデーションを弄ろうとした子供たちを叱りましたよね?毒を仕込む殺人の当日に、子供たちがいたずらでもして万が一にもそれに触れないように釘をさしたのではありませんか?」
なつきの顔から笑みが消えた。クッ…と顔をゆがめ、立ち上がって安室を振り返る。
「じゃあ、ちゃんとした証拠を見せてみなさいよ!」
「そうですね、樹里さんの指からファンデーションに混ぜた毒が検出されればそれが証拠になるでしょうけど…樹里さんが指を舐めてしまった時点で証拠は消えたも同然…。」
安室の言葉を聞いて、なつきは勝ち誇ったように笑った。
「でも、証拠は他にもありますよ」
「え……?」
「毒を混ぜたファンデーションの瓶とスポンジ。賢い貴女はその二つを機内に持ち込んではいない筈。かと言って空港内のゴミ箱に捨ててくるのは危険…。そう、僕なら送るでしょうね。自宅宛てに、郵便で。」
なつきはハッと息を飲んだ。その顔色は心なしか青ざめているように見える。
「ま、空港の郵便局に電話して、郵便物を調べて貰えばわかる事だよね。なつきさん、教えてくれる?なつきさんの自宅の住所…。」
コナンに聞かれたなつきは目を閉じ、観念したようにうなだれた。一同は黙って、なつきを見つめた。沈黙が機内を包んでいく――。やがて、なつきが俯いて目を閉じたまま口を開いた。
「あの女…私の夢を潰したのよ」
「夢…?」
天子が尋ねると、なつきは目を開けて顔を上げた。
「私には、ハリウッドでメイクアーティストとして活躍する夢があったの。その夢を実現させるために、ロスのメイク学校に留学して、英会話もマスターしたわ。そして帰国した後も、あの女のヘアメイクをしながらハリウッドに手紙を送り続けてたの。そして、一か月前――ハリウッドの女優が来日したとき、私のメイクの腕とセンスを認めたエージェントから一緒にやらないかって声を掛けられたの。私にとっては一生に一度のチャンスだったわ。それを…あの女、裏から手を回して潰したのよ!」
「…よっぽど、貴女を手放したくなかったのね…。」
なつきはキッと真佐代を睨みつけた。
「メイクとしての私を必要としてやったんならまだ許せたわ!でも違った…あの女は、私を便利な付き人として傍に置いておきたかったのよ!!…それが分かったとき、実行するしかないと思った…。あの女は、私のメイクとしてのプライドを…!」
なつきは顔を覆いながらその場に崩れ落ちた。すると、厳しい顔をした小五郎が歩み寄る。
「メイクとしてのプライドだぁ?笑わせんじゃねぇ!それならどうしてメイク道具を凶器に使ったんだ!今のあんたに、プライドなんて言葉を使う資格はねぇ!」
小五郎の言葉に、なつきは目を見開いた。心の中に、初めて自分の犯した行為への疑問と後悔が渦巻いていく。
「あんたはまだ若い。罪を償ってもう一度やり直すんじゃ」
阿笠博士の言葉に、なつきは目を閉じて頷いた。涙がとめどなくあふれ出てきて、声をあげて泣く。真佐代や成沢たちは、なんとも言えない複雑な気持ちでなつきを見つめた。彼女が言っていた通り、自分たちも多かれ少なかれ樹里に恨みを抱いていたからだ。
なつきの告白によって、事件は幕を閉じたかのように見えた――。
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