最後の望み


「さっき、機長さんたちを運ぶときに、伴さんがそこに手をついたのを見ました!」
光彦がそう話すと、キッドは「ったく、あのオヤジ!」とコナンを見た。
「こりゃ、一刻の猶予もならねーぞ!」
「ああ。――小鳥ねーちゃん!そこに地図があるはずだから取ってくれる!?」
「う、うん!」
小鳥が座席の後ろにある棚を探し始めると、キッドは無線に呼び掛けた。
「函館タワー、こちら865便!緊急事態が発生した!聞こえるか?応答してくれ!」
『こちら函館タワー………865便……』
上杉の声がノイズに消され、キッドがヘッドセットを叩く。
「おい!ノイズが酷くてよく聞こえない!」
「他のチャンネルは!?」
安室が無線コントロールパネルのスイッチを操作していると小鳥は「あった!」と地図をコナンへと渡した。コナンは地図を受け取って、もう一度中央のディスプレイに表示された燃料残量をチェックした。
「残りの燃料は約三千ポンド…一分三百ポンドとして、飛んでいられる時間は十分程度しかない。その間にどこか着陸できる場所を探さねーと…」
「ど、どこかってどういう事?」
地図をめくるコナンに小鳥が尋ねると、安室が代わりに答えた。
「十分で滑走路が元に戻るとは思えないでしょう?」
「じゃ、じゃあ新千歳は?新千歳空港に行けば…!」
進藤の提案に、キッドは「ぎりぎりだな」と険しい表情で答える。
「途中で燃料切れになる可能性が高い」
「他の空港はこの近くにないんですか!?」
小鳥が尋ねると、子供たちの傍にいた灰原が「ないわ」と答えた。
「農場の離着陸場や、自衛隊の基地ならあるかも知れないけど、滑走路の長さが足りない」
「でしたら、いっそのこと道路に着陸させたらどうでしょう?北海道は広くて真っすぐな道が多いから…」
光彦の提案に、安室は「無理ですね」と即答した。子供たちが「ええっ!?」と安室を見る。
「この飛行機の両輪の幅は十一メートル。十二メートル以上の幅の道路には、必ず中央分離帯と看板の設置が義務付けられていますし、周りに民家や電柱だってあるでしょう?」
「じゃあ、牧場は?」
元太が提案すると、灰原が「駄目ね。地面が柔らかすぎるわ」と首を横に振った。
「それより、近くの海に着水させた方が…」
「いや、かえって波に機体を取られてひっくり返っちまう」
これ以上打開策が浮かばない子供たちや灰原、小鳥たちは黙ってしまった。コナンは函館市の地図を広げ、懸命に指で探した。ゴルフ場、五稜郭、函館山…けれど、どれもジャンボ機が着陸出来るはずがなく、指は地図上をむなしく彷徨うばかりだ。
「ねえコナンくん!私、知ってる!長くてまっすぐで周りに何もない場所!」
「え!?」
「この前テレビで『イルカ・鯨ウォッチング』っていうのをやってた時に映ってたよ!」
歩美の助言に、コナンは頭の中に室蘭を思い浮かべる。
「埠頭だ!」
室蘭のページを開いたコナンは、室蘭港にある埠頭を順に指で追う。
「新日鐵埠頭…中卯埠頭…本輪西埠頭…室蘭埠頭…あった!崎守埠頭だ!長さはおよそ千四百メートル…幅はおよそ三十メートルくらいだろう」
「でもこの飛行機の横幅は…」
言いかけた小鳥に、コナンは「ああ」と頷いた。
「六十メートル弱ある。でも片方の翼を海の方に出せば何とか…」
「無理ね、距離が足りないわ」
灰原の声にコナンたちは振り返った。
「この飛行機の着陸滑走距離は、二千メートルを超えている筈。それに地面の強度にも問題が…」
「幸か不幸か、燃料は残り少ねーし乗客も少ない。重量が少なければ、それだけ着陸く距離が短くて済む。風向きによってはもっと短くなるかも…」
コナンの言葉に、光彦がハッと顔を上げた。
「羽田で見た天気予報では、一晩中強い西風が吹くっていってました!」
「本当か!?光彦!」
コナンは広げた室蘭の地図を見て、崎守埠頭を指さした。
「この埠頭は大体東西に向かって伸びている!西風に向かって東からランディングすればギリギリ着陸できるかも――」
「無理だ」
「え?」
コナンが驚いて機長席のキッドを振り返ると、キッドは操縦桿に添えている左手をちらりと見た。
「さっき管制塔にぶつかったとき、左腕を強打してな。今は殆んど右手だけで操縦しているんだ。手動で着陸させるとなると両手で操縦桿を握らなきゃならな――…」
と、言いかけてキッドはふと横に立っている小鳥に気が付いた。きょとんとする小鳥にフッと笑いかける。
「君、視力は?」
キッドがその質問をした瞬間、副操縦士席に座っていた安室が「駄目だ!!」と叫んだ。普段温厚な彼が声を荒げることは殆んどない。一同は驚いて安室を見た。
「それは、駄目だ…。誰か代わりが必要なら僕が座る、だから小鳥だけは絶対に駄目だ!」
「…分かった。それじゃあ代わってくれ。副操縦士席になら座らせても構わないな?」
キッドは確認を取ると、座席をずらしてヘッドセットを外した。安室は、シートベルトをしてゆっくりと操縦桿へ手を添えた。
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