諦めない気持ち
「安室さん、いくよ!小鳥、ギアレバーを下してフラップレバーを引け!」
「う、うん!」
言われた通りに操作をすると、突然ビビビ…と警告音が鳴り響いた。ディスプレイには『FUELQUANTITY LOW』の赤い文字が点滅している。
「…燃料がもうないみたいだな」
「やり直しはきかねぇ、一発で決めるぞ!」
着陸態勢に入ったジャンボ機は徐々に高度を下げ、白鳥大橋を超えた。時速二百五十キロで崎守埠頭に迫ったジャンボ機は、東側の端に止まっていたパトカーの屋根を後輪で砕淹て突き進む。埠頭に居た警官たちが次々と海に飛び込み、巨大な後輪が設置した途端、路面に亀裂が走った。
「機首を下げて!!」
コナンが叫び、安室は「ああ!」と相槌を打って操縦桿を両手で押した。
「小鳥、逆噴射!」
「了解!」
小鳥が左手でスラストレバーを引くと、ジャンボ機の残った三基のエンジンカバーが開き、噴射が前向きに切り替わる。安室は両足でブレーキを踏みこんだ。逆噴射と車輪にブレーキがかかったジャンボ機は、スピードを弱めながらも埠頭を走り続ける。
「…まずい!クレーンが!」
「安室さん!右足でラダーペダルを押して!」
「分かった!」
安室は言われたとおりにラダーペダルを踏みこんだ。ジャンボ機の車輪がパトカーを巻き込みながら曲がり、機体が大きく右へ流れた。左の主翼がクレーンに激突して、激しい衝撃が機内を襲う。なぎ倒されていくクレーンが不気味な音を立てながら土山にめり込み、激しい土煙を上げると、ジャンボ機はその横でようやく動きを止めた。
「とまっ…た、のか?」
「うん、止まったよ。凄いや、安室さん」
目を開けてジャンボ機が完全に止まったことを確認した安室は、ほっと息をついた。「君もね」とコナンに笑いかけながら副操縦士席に視線をやると、小鳥は座席に寄り掛かって目を閉じていた。
「…頑張ったな、小鳥」
彼女のシートベルトを外し、膝裏に手を入れて抱き上げる。安室は、小鳥の額へとそっとキスを落とした。
ジャンボ機が緊急着陸した崎守埠頭には十数台の救急車が到着し、乗客は非常用の脱出シュートで次々と地上に降りていった。なつきは駆け付けた室蘭署の刑事に身柄を確保され飛行機から降りた子供たちは興奮しながら着陸したときの様子を語り合っていた。バックドアが開かれた救急車には、毛布にくるまった安室と小鳥が腰かけている。
「安室さんは凄いなぁ…こんな大きな飛行機を着陸させちゃうなんて」
「貴女が居たからですよ。貴女が居たから、絶対に死なせるわけにはいけないと…自然と勇気が湧いてきました」
小鳥は、少し顔を赤らめて安室へと凭れ掛かった。暫くそうしていると、救急隊員がシートを挟んだクリップボードを小鳥へと渡す。
「すみませんが、ここに貴女の住所とお名前を」
「はい」
小鳥が言われたとおりに書き始めると「ああ、それと」と、救急隊員が彼女に顔を近づける。
「バスト、ウエスト、ヒップのサイズも。特に貴女のバストサイズは是が非でも知りた…」
彼がそう言いかけた時、凄まじい殺気が背中を襲う。それは間違いなく安室が放ったものだった。安室は大きく息を吸うと、わざと聞こえるように叫ぶ。
「コナンくん!!!!ここに怪盗キッドが!!!!」
「何!!???」
コナンが血相を変えて振り返り、そのままキック力増強シューズのスイッチを入れた。キッドは舌打ちを零すと、再び白い翼を見せて空へ飛び立った。
「中々派手なランディングだったぜ!お二人さん!」
飛び立っていく怪盗の姿を見送った安室と小鳥は、顔を見合わせて笑った。
銀翼の奇術師編 完
*前次#
top