大切な言葉
会が進み、新郎新婦は高砂席を離れ、ゲストの間を回った。丸テーブルに居た小鳥たちの元にもやってきて、園子は二人のなれそめを聞いた。
「じゃあプロポーズの言葉は無かったんですか?」
「ええ、彼そう言うの苦手だから…」
沙羅が答えると、光太郎は恥ずかしそうに頭をかく。
「男はそのくらいの方が良いわよ。歯の浮くようなセリフを言う奴にロクな奴はいないから」
英理がそう言うと、離れたところに居たコナンと安室は同時にくしゃみをして、誰か噂でもしているのか?と小鳥たちの方を振り返る。
「ねえ、前から聞こうと思ってたんだけど、お父さんはなんて言ってお母さんにプロポーズしたの?」
「だから、歯の浮くようなくだらない台詞よ」
「おばさま、教えてください!」
と小鳥二も言われて、英理は「でも何か忘れちゃったから…」と苦笑いした。
「またまたぁとぼけちゃって!」
「もう、焦らさないでくださいよ〜!」
女子たちに詰め寄られた英理は頬を赤く染めて、うーん…と顎に人差し指を当てた。
「『お前の事が好きなんだよ。この地球上の誰よりも』……だったかなぁ?」
恥ずかしそうに英理が答えると、沙羅、小鳥、蘭は、わぁ…とうっとりした表情を浮かべた。その横で園子と八重は顔を引きつらせながら小五郎を振り返る。
「素敵じゃない…!」
自分もそんなプロポーズを受けてみたい…と思った小鳥の頭に、安室の姿が思い浮かぶ。
「ああ、もし安室さんにそんな事を言われたら…*なんて顔してんじゃないよ!」
八重に肘で小突かれた小鳥は、ハッと我に返った。
「べ、別にしてないよそんな顔!」
「どうしました、小鳥さん?顔赤いですよ?」
「な、何でもないです!お手洗いに行ってきますね!」
歩み寄ってきた安室に慌てて誤魔化すと彼女はそそくさと部屋を出た。
「敏也!なんでお前がここに居る!」
安室たちが話していると、近くのテーブルから荒々しい声が聞こえてきた。捜査一課の小田切警視長の前に立つのは、随分と派手な男だった。
「あの人は…」
「ああ、小田切警視長とご子息の敏也さんだよ。確かロックバンドをやっていると聞いたが…」
白鳥が二人をなだめるも、「邪魔したな!」と敏也は煙草を灰皿に押し付け部屋を出て行ってしまう。異様な空気が会場に流れたが、すぐに元通りになり、各々新たに歓談を始める。
「…小鳥遅いな…」
安室はそう呟き、ぼんやりと壁に凭れ掛かった――。
化粧室に入った佐藤は、鏡の前に座ってファンデーションを塗り直した。鏡で肌をチェックして立ち上がると個室から重いため息を吐いた小鳥が出てくる。
「あら、桜庭さん。どうしたのそんなため息…」
「佐藤刑事!いえ…あの、お付き合いしている男性と早く一緒になりたい気持ちはあるけども、彼のやることが終わるまで待たないといけないという葛藤がですね…」
「新郎新婦を見て自分も…って欲望が芽生えちゃったわけか…っと」
手を洗って戻ろうとした際、照明が消える。
「おかしいわね…様子を見てくるから動かないで」
佐藤は小鳥の肩に手を置くと、暗闇の中を手探りで進み、出口へ向かった。残された小鳥は、ふと視線を下に移す。洗面台の下からかすかに光が漏れていて、扉を開くとバケツの上に点灯した懐中電灯があった。
「佐藤刑事!ここに懐中電灯がありましたよ!」
佐藤が「え?」と振り返る。小鳥が懐中電灯を持って佐藤の方へ向けたとき――出口の方でカチリと音がした。音に気付いた佐藤が振り返る。すると、懐中電灯の光に照らされて、サイレンサー付きの拳銃を持った手が浮かび上がった。
「ダメ!!!桜庭さん!!!」
佐藤が小鳥に向かったと同時に、黒い人物は拳銃を撃った。銃弾が佐藤の肩を貫き、血が飛び散る。
「佐藤刑事!!」
黒い人物は連続で銃弾を放った。銃弾の一つが洗面台の蛇口に直撃して、噴出した水が小鳥に襲い掛かった。持っていた懐中電灯が回転しながら落下し、その光に照らされて黒い人物の顔が一瞬浮かび上がる。回転した懐中電灯が小鳥を照らした瞬間、黒い人物は拳銃を撃った。が、銃弾は小鳥の頬を掠め壁に突き刺さり、小鳥は倒れてきた佐藤と一緒に床に倒れこんだ。犯人の走り去る足音を聞いていると、非常照明が点灯して化粧室も薄暗い明かりに包まれる。
「佐藤刑事…?佐藤刑事しっかりしてください!」
水浸しになった床に佐藤の血がみるみる広がっていくのが見えて、小鳥はハッと両手を見た。血まみれになった両手がガクガクと震える。
「私が…私が懐中電灯を………私が、佐藤刑事に懐中電灯を向けてしまったから…佐藤刑事…、やだ…なんで、こんな時に…お母さん…っ、いやああああああ…!!」
小鳥は血まみれの両手を頬に押し当てながら絶叫した。
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