愛した人
1人きりになった安室は、小鳥の携帯を握りしめて息を吐く。いつか、彼女が言っていた言葉が脳裏に浮かぶ。
『もしも、私に何かあったら…零さんから両親に連絡してください。父も母も…分かってくれると思います』
自分の素性を、彼女の宿命を明かした時に小鳥は笑ってそう言った。
震える指で通話ボタンを押して、数度コール音を待つとやがて目的の人物へと電話が繋がった。
『もしもし?小鳥ちゃん、どうしたの?』
「…っ、……。…あの、僕は…小鳥さんとお付き合いをさせて頂いている安室透と申します。実は先程娘さんが……」
安室は息を呑むと、事のあらましを話した。全てを話終えると、電話の向こうで息をつくのが聞こえる。
『お父さん…小鳥の父親と一緒に直ぐに日本へ向かうから…透くん、あなたはあの子についていてくれる?私たちが着くまでで良い……そしたら、思う存分捜査出来るでしょう?頼んだわよ、探偵さん』
電話の向こうで、彼女の母親は笑っていた。この人は娘の無事を信じている……そう確信した安室は、思わず熱くなった目頭を抑える。こんな姿、あの小さな探偵には見られたくないものだ。頬に流れる雫を乱暴に拭って、安室は踵を返し小鳥の病室へと向かった。
「去年の夏、東都大学附属病院・第一外科の医師、仁野保氏の遺体が自宅のマンションから発見された」
目暮が話し始めて、白鳥は仁野の写真をテーブルに置く。眠ってしまった小鳥に布団を掛けた安室は、その写真を覗き込んだ。襟足をやや伸ばした髪をオールバックにし、臙脂色のスーツに身を包んだ仁野は笑っているものの、メガネの奥からのぞかせる三白眼がどこかきつい印象を与える。
「捜査を担当したのは、ワシの先輩でワシと同じ捜査第一課の友成警部だった。彼の下に射殺された奈良沢刑事と芝刑事、そして佐藤くんがついたんだ。仁野氏はかなり酒を飲んだ上、自分の手術用のメスで右の頸動脈を切っていた。死因は失血死。第一発見者は隣町に住んでいてルポライターをしている妹の環さん」
白鳥が仁野保のとなりに環の写真を並べるとコナンと安室がハッとする。
「安室さん、この人……!」
「パーティにいた…」
写真に写っていたのは、小田切敏也が会場を出ていく時扉の前に立っていた女性だった。すると、写真を見た小五郎が「思い出したぞ!」と手を叩いた。
「彼女、前に俺を訪ねてきたんだ!」
「それで、彼女は君に何を!?」
目暮が尋ねると、小五郎はバツが悪そうに「あ、ああ……」と頬をかいた。
「それがその時はしたたかに酔ってまして……彼女が何を話したのか全然覚えてないんです」
相変わらずのダメっぷりにコナンは苦笑いをする。すると安室が、仁野の写真へと指を這わせた。
「僕、この仁野保さんの事件覚えていますよ。確か、亡くなる何日か前に手術ミスで患者さんの家族に訴えられてますよね?」
「ああ、そうだな…。部屋のワープロにも手術ミスを謝罪する遺書が残っていたんで、友成警部は自殺の可能性が高いと判断したんだ」
「ところが、妹の環さんがそれを否定したんです」
白鳥はそう言って環の写真を手に取った。
「兄は元々患者の事など全く考えない最低の医者で、手術ミスを詫びて自殺することなどありえない……ってね」
「しかも、1週間ほど前にある倉庫の前で保さんが紫色の髪をした若い男と口論しているのを見たらしい」
(紫色の髪……?)
目暮警部の話を聞いた安室とコナンの頭に小田切敏也が浮かんだ。
「友成警部は念の為、奈良沢、芝、佐藤刑事を連れて倉庫へ向かった……。その日は猛暑でな…、友成警部は心臓の病で亡くなったんだ……」
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