突然の来訪


「体調は大丈夫ですか?少しでも具合が悪くなったら僕に言ってくださいね」
「はい…有難うございます。安室さん」
翌日、MRIなど一通りの検査を終えた小鳥は、安室に連れられて噴水のある病院の中庭に来ていた。先程、少年探偵団と名乗る子供たちも見舞いに来てくれたが、全く覚えていない事に申し訳なくなった彼女は気分転換の為、散歩に行きたいと言い出したのだ。
「落ち込んでいるかと思いましたが…思ったより元気そうで安心しました」
「…確かに、自分が誰だかわからないのは怖くもあります…。でも落ち込んでもどうにもならないから、前向きでいようって――私は多分、そういう人間だったんだと思います。ねえ、安室さんは私の恋人さんなんですよね?私ってどんな人ですか?」
ベンチに座った彼女は、興味深そうに安室を見上げる。二人きりだというのに「安室さん」と他人行儀に呼ばれる違和感に、彼は拳を握った。
「一度決めたことは、どんなに傷ついても最後までやり遂げる、頑張れる人だよ。暖かくて優しくて――僕を心から支えてくれる唯一の女性…。僕は、俺はそんな君が大好きで…愛しくて、愛してるんだ」
隣に腰かけて彼女の手を握れば、小鳥の顔はみるみる赤くなる。耳まで真っ赤になった小鳥は、そっと安室の手を握り返した。
「…だったら、早く思い出さないとですね。私は間違いなく、安室さんの事を愛している筈ですから…」
安室は、ベンチから立ち上がると地面に膝をつき、小鳥の右手を取って指先にそっと口づけた。

「あ、小鳥のねーちゃんお帰りなさい!安室さんもおかえり!」
「ただいま、えっと…コナンくん?」
病室に戻ると、ちょうど訪れたコナンが花束を持って出迎えた。「お見舞いだよ」と渡されたそれはカラフルで、花独特のいい香りがする。
「コナンくん、小鳥さんのお見舞いかい?」
「うん、あと安室さんに相談したい事があって…。!誰!?」
「――くそっ!!」
背後からの気配に、コナンと安室は勢いよく振り返る。安室が素早く病室を出て追いかけるが、既に人の姿は無かった。これはまずい、と安室は歯噛みする。コナンは携帯を取り出し、一度警視庁に戻った目暮警部に電話を掛けた。

コンコン――…暫くしてノック音が響き、安室は返事をしてドアを開ける。目暮かと思っていたが、扉の前に現れた小鳥そっくりな女性に、思わず目を見開く。
「えっと…」
「まあ、若しかして貴方が安室さん?私、小鳥の母です。遅くなってしまってすみません…この人が手術中ですぐ向かえなかったの」
鶫、と名乗った彼女――小鳥の母親は、傍に控える男性の手を取った。状況から彼が再婚相手であり、小鳥の義理の父親なのだと判断できる。
「面倒を掛けてしまってすまないね、安室君。それで小鳥ちゃんは…?」
「あ、私です。えっと…お母さんとお父さんですか?」
小鳥は名前を呼ばれて、安室の後ろから顔を出す。途端、鶫は小鳥を抱きしめた。
「小鳥ちゃん!無事でよかった…怪我はない?安室さんから連絡を貰って凄く心配したのよ!」
「う、わぁ!だ、大丈夫です!怪我はしてないので…いやちょっとしたかもだけど、あの…わざわざ来てくれてありがとう」
一癖ある母親をなんとか宥める。小鳥は彼女の事を全く覚えていないのが申し訳なくなり、少し眉を下げた。鶫は、小鳥から離れると膝を曲げてコナンへと視線を合わせる。そして笑顔でコナンの頭を撫でた。
「久しぶりね、新ちゃん!あら、こんなに小さかったかしら?」
「げ!?や、やだなぁ…僕はコナンだよ!新一兄ちゃんはもう高校生だって…アハハハ…」
「ちょ、ちょっとお二方よろしいですか!?コナンくん、小鳥さんの事頼んだよ!」
唐突に小さな探偵の正体をバラしそうになった彼女の両親を連れて、安室は強引に病室を後にした。
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