雨音


翌日、雨が降る中退院することになった小鳥は、風戸や看護師に玄関で見送られた。小鳥の傍には安室、コナン、八重、そして高木が車を止めて待っていた。
「くれぐれも無理して思い出そうとしないように、良いですね?」
「はい、有難うございます先生」
小鳥が返事をすると、風戸は安室の方を向いた。
「少しでも記憶が戻ったら連絡してください」
「わかりました」

自宅につくまで、小鳥はずっと黙ったまま、雨が降る外の景色を見つめていた。
「ここが、貴女の家ですよ。とはいっても借りてるのは僕で、所謂同棲ってやつですけど」
車が止まって安室がそう言うと、小鳥は目の前のマンションを見上げた。
「綺麗な建物…」
車を降りた安室が、後部座席のドアを開けると「濡れるよ」と八重が差していた傘を小鳥に向けた。座席から腰を浮かせて車を降りようとした小鳥は、ハッと目を見開いた。すぐに座席に戻り、自分の体を両腕で抱きしめるようにして震える。
「どうしたの?小鳥」
声を掛ける八重の傍で、安室は道路を覗き込んだ。すると、彼女が降りようとした地面に、小さな水たまりが出来ていた。
「ああ…水たまりが怖いんでしょう。佐藤刑事が撃たれた時も水たまりが出来ていましたし。すみません、高木刑事、もう少し前に出して頂けますか?」
「あ、わかりました」
安室がドアを閉めると、高木は車を前に進めた。

「ここがリビングで、あっちが僕の部屋。ここが小鳥さんの部屋ですよ」
「私の部屋…」
安室は、小鳥の部屋のドアを開け電気を点ける。机や本棚、ベッドが置かれた部屋を、小鳥は不思議そうに見渡した。
「あ…これ…」
ふ、と机の上に置いてあった写真立てに目を止めると、横から「ああ、それは…」と八重が顔を出す。
「私とトロピカルランドに行った時の写真だよ。小鳥が途中で転ぶもんだから、噴水でびしょびしょになっちゃってさ!」
「噴水?」
「うん、2時間おきに噴水が出る場所があるんだけど、時間ギリギリって所で小鳥が転んで噴水が直撃したのよ」
八重はけらけらと面白そうに語る。過去の失態を想像したのか、小鳥も釣られて笑った。

「明日、少し出かけませんか?」
夕方、食事の片づけを終えた安室は、手を拭きながらそう尋ねた。
「お出かけですか?」
「ええ、気分転換にもなりますし…。ちょっと情報も集めたいので例のホテルに行ってみようかと。でも、若しかしたら嫌な事を思い出させてしまうかも知れないので無理にとは言いませんが…」
「行きます!」
食い気味に返事をする小鳥に、安室は少し驚き、持っていたタオルを落としそうになる。小鳥は少し恥ずかしそうに頬を染めて安室を見た。
「デート、ですね。安室さんと…」
「小鳥…」
『バーロー、二人きりで行かせるかよ』
突如、小鳥の手元から聞こえてきた声に、安室は驚いて今度こそタオルを床に落とす。小さな探偵と通話中だったらしく、手元の携帯には『江戸川コナン』の文字が表示されていた。
「コナン君…盗み聞きは感心しないな」
『盗み聞きのプロが何言ってんだよ。俺は小鳥のねーちゃんの状況を確認してたんです〜どこぞの紳士の皮を被った狼に手籠めにされて無いかってね!』
「き、君なぁ!そんな事するわけ無いだろう?」
『いや、あると思う。それより、明日は僕も行くから!米花駅で待ち合わせね!お休み、小鳥のねーちゃん!』
プツッと通話の切れる音がして、液晶画面が真っ暗になる。楽しそうに笑う小鳥とは裏腹に、安室は大きなため息をついた。
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