小さな真実


「囮になるつもり?」
環に続いてライブハウスを出てきたコナン達は、階段を上がった環に声を掛けた。
「貴女、仁野保さんの妹の環さんですよね?一年前、お兄さんと口論していた相手が小田切敏也さんで、父親が警視長の為事情聴取すらされなかった事を突き止めた――…違いますか?」
環は驚いた。自分の名前どころかそんな事まで知っているなんてこの人たちは一体何者なのだろう――。
「貴方たち、一体…」
「安室の兄ちゃん、探偵なんだ!僕たちはその助手だよ!」
コナンはまるで子供ような笑みを浮かべて環を見た。
「もし、環さんがお兄さんの事を本当は好きだったとしたら、お兄さんを自殺として処理した刑事さん三人を恨んだかもしれないですね」
安室の言葉に、環は顔をゆがめ眉をピクピク動かした。そして腕を組んでフンとそっぽを向く。
「大っ嫌いよ、兄なんて。事件の事を調べているのは、ただ真実が知りたいからよ」
「だったらイチかバチか、敵の本拠地に乗り込んでみませんか?」

夕方、安室たちは環を連れて小田切敏郎の家を訪ねた。高い塀に囲まれた立派な日本家屋で、四人を迎え入れた家政婦は廊下を通り、小田切がいる中庭へと案内した。ヒグラシが鳴く中庭では、袴姿の小田切が立っていた。腰に日本刀を差し、小田切の前には竹に刺さった巻き藁がある。
(居合の試し斬りだ…)
コナンが気づいたと同時に、小田切は日本刀を抜いた。掛け声と共に巻き藁が鮮やかに切り落とされていく。
「…かっこいい…」
「え…」
小田切の姿を見て、少し頬を染める小鳥を横目に、安室は冷や汗をかいた。
「仁野環さんですね。貴女にお渡ししたいものがあります」
日本刀を収めた小田切は、環を見てそう申しでる。環は「私に…?」と戸惑いの表情を見せた。

「一か月前、息子の敏也の部屋で見つけました」
応接間に通されたコナンたちはソファに座る。その向かいに座った小田切は、そう言ってテーブルに持っていたものを置いた。それは金属製のライターで下部に文字が刻印されている。
「<T・JINNO>…兄のですか?」
ライターを手にした環は刻印された文字を読み上げ、そう尋ねた。
「そうです。その名前は…一年前心臓発作で死亡した友成警部が担当した最後の事件という事で、覚えていました。敏也を問い詰めると、仁野保さんが薬を横流ししているのを知って金と共に脅し取ったと白状したんです」
小田切は一息ついてソファへ背を預けた。
「…だが、当時の捜査資料には敏也の事は一言も書かれていなかった。だから私は、奈良沢刑事にもう一度調べ直すよう命じました」
「え…再捜査を命じたのは小田切さんだったんですか!?」
意外な事実に環は驚きを隠せなかった。小田切が事実を隠ぺいした張本人だと思い込んでいたので当然と言えば当然でもある。
「奈良沢刑事が射殺された今は、目暮警部か引き継いでいます」
小田切がそう補足すると、安室が「でも」と不敵な笑みを浮かべる。
「もし再捜査が奈良沢刑事自身の意思だったとしたら、息子さんに捜査の手が及ぶのを防ごうとしたのかも知れませんねぇ」
横でコナンがギョッとした顔を見せ、小田切はフッと鼻で笑った。
「確かに、私にも三人を殺害しようとする動機はあるわけだ」
「ね、ねぇ!真実を明らかにするつもりがあるなら捜査資料を見せてよ!」
慌ててコナンがそう身を乗り出すと、「それは出来ん!」と小田切は一蹴する。
「真実を明らかにするのは、我々警察の仕事だ」
とりつくしまもない小田切の表情を見て、コナンは眉根を寄せた。
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