遠い未来に


「行ってきます!」
明朝、コナンはスケボーを抱えて探偵事務所を出る。蘭は彼を見送りながら不思議そうな顔をした。
「…コナンくん、今日トロピカルランドに行くって聞いてないのかな?」
「ボウズなら、仁野環さんに捜査資料を見せてもらうって言ってたぞ。ま、トロピカルランドの方は俺達だけで何とかなるだろ。安室くんが一緒だしな」
デスクで新聞を読んでいた小五郎は、無精ひげを剃って既にスーツ姿だ。いつになくやる気の小五郎を見て、蘭はほっと息をついた。


「車が二台付いてきてますね…一台は毛利先生と子供たちを乗せた車…もう一台は…」
「タクシー…ですかね?でもたまたま行先が一緒って事もあり得ますよ」
「…たまたまなら良いんですが…」
安室はRX-7を運転しながら複雑そうな顔をする。自分たちも来ると言ってきかなかった子供たちを含めれば、数が多すぎる。これでは犯人に見つかりやすくなってしまうのでは、と少し不安に思った。今迄の傾向から、犯人はオートマチックの銃を所持している事は明らかだ。拳銃で狙われた時、人数が多ければ誰かが人質に取られかねない。安室はそれを危惧していたのだ。
「八重さん、以前小鳥さんとトロピカルランドに行った時、どんなアトラクションに乗ったか覚えてますか?」
「んー…ミラクルコースターには乗ったかな、それとボートで滅茶苦茶走ったし…あ、お化け屋敷にも行きましたよ!」
「小鳥さん、幽霊とか苦手でしたよね?」
「すっごいビビってました」
安室は、「手あたり次第乗っていきましょう」と笑いながら車をパーキングに停めた。運転席から降りると、助手席側に回り、車から降りようとする小鳥に手を差し伸べる。小鳥は少し恥ずかしそうにしながら安室の手を取った。

海上に浮かぶトロピカルランドは『野生と太古の島』『冒険と開拓の島』『怪奇と幻想の島』『夢とおとぎの島』『科学と宇宙の島』の5つに分かれていた。トロピカル城がある『夢とおとぎの島』は正面ゲートを入って最初にある島で、他の島とは橋でつながっている。
「えーと、ミステリーコースターは確か隣の『怪奇と幻想の島』ですね」
安室は中に入るなり、地図も見ずに目的の場所へと歩き始めた。
「安室さん、場所分かるんですか?」
「ええ、浮気調査などでテーマパーク内の尾行をすることもあるので、アトラクションの位置や出入り口などは全て把握していますよ」
小鳥は、安室の言葉に胸を抑える。どこかで聞いたことのある、懐かしい話だった。自分の向かい側で笑う男は、顔こそはっきり出てこないものの、彼が『安室透』なのだと理解できた。
「安室さん」
彼の手に、そっと自分の指を絡める。見た目より随分しっかりとしている大きな手だ。小鳥は少し照れたように笑った。
「私の事、守ってくださいね」
「勿論です…なにせ貴女は僕の大切な…未来の妻ですからね」

「ちょ、ちょっと二人とも!いい感じにならないでくれる!?私だけ恥ずかしいじゃない!」
二人の様子を見て、八重は顔を真っ赤にしながら彼らの間に入る。安室が「すみません」と笑うが、彼女は頬を膨らませた。
「小鳥、本当はもう記憶が戻ってるんじゃないの?」
「え!?そ、そんな事ないって…さっき何か思い出しかけたけど、あんまりはっきりしないもの…頭に靄が掛かってるみたいな感じで…」
ジト目で見つめてくる八重に、小鳥は慌てて首を振った。
「まあ…急ぐことでもないけどさ。さあ着いたよ!小鳥と安室さんは前ね!」
八重は二人の背中を押してミステリーコースターの入口へと促す。三人は案内された座席に座り、ベルトをしっかりと締めた。
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