勇敢な探偵団
アトラクションから出てきた小五郎は、青ざめた顔で近くのベンチに腰掛けた。「苦手なら乗らなきゃ良かったのに…」と蘭が窘める。暫くして落ち着いた彼は、腕で冷や汗を拭った。
「確かによ、弟子の安室に任せておけば良いとは思ったんだだが…あいつもあいつで無茶をする節があるからよ。どーにも心配でほっとけねぇんだよな」
「すみません、毛利先生…僕の心配までして頂いて…」
安室は申し訳なさそうに眉を下げる。そんな彼の頭を、小五郎は大きな手でぐしゃぐしゃに撫でまわした。
「いーんだよ、お前は今、小鳥ちゃんの事だけを見てろ。周りの事は俺や蘭たちが何とかするから」
「…、はいっ!」
元々、小五郎の元へは組織の探り屋として近づいた。コナンの力がなければ腑抜けと言われてもフォローの仕様がない、と思ったこともある。しかしそれでも、彼のさりげなく頼りになる部分は、安室も尊敬していた。
「ひゃっ」
小さな悲鳴に振り返ると、八重がコーラを手に笑っている。どうやら買ってきたばかりの冷たい缶を小鳥の頬に当て驚かせたようだ。
「はい、コーラ買ってきたよ!」
「あ、ありがとう…」
小鳥は缶を受け取るも、なんとなく飲む気になれず、リュックのポケットへとしまった。すると、ベンチの前で周囲を見張っていた高木が小五郎に近づく。
「あのぅ、毛利さん、ちょっとトイレ行ってきます」
「おう」
高木は小走りで自販機の隣にある公衆トイレへと向かった。自販機の傍で風船を配っていたトロッピーの着ぐるみは、高木が通り過ぎると突然風船を全部手放してのそのそとベンチへ向かって歩いていく。
「小鳥…!危ない…!」
異変に気が付いた安室が、素早く拳を振るう。避けようとしたトロッピーはバランスを崩すも、すぐに踵を返して逃げ出した。
「元太君、歩美ちゃん、行きますよ!」
「こら、君たち!よさんか!」
園内の見回りから戻った子供たちは、慌てて逃げるトロッピーの姿を見るなり、博士の制止もきかず走り出した。
「逃がしません!!」
光彦は持っていたブーメランをトロッピーに向かって投げる。しかし、ブーメランは彼の横を通り過ぎ、前を歩いていた男性のスポーツバックに当たった。そのバックに引っかかりトロッピーは転倒する。
「唐辛子入り水鉄砲!くらえ!!」
追いついた元太がトロッピーの口めがけて水鉄砲を放った。真っ赤な液体が着ぐるみの中に入り、トロッピーは悲鳴を上げて口を押える。跪いてゴホゴホと咳き込む彼に、歩美が背後から近寄りその足にオモチャの手錠を掛けた。そのすきに着ぐるみの頭を外した小五郎は、中の人物に目を見張った。
「お、おまえは、友成真!!!」
「ちょ、ちょっとこの人…!」
近寄って来た八重が、オーバーオールのポケットに何か入っているのに気づきそれを取り上げる。それは革ケースに入れられたサバイバルナイフだった。
「友成真!殺人未遂の現行犯で逮捕する!!」
トイレから戻って来た高木が、後ろ手に手錠をかけるのを見て、子供たちは「やったぁ!」と喜んだ。
「『小鳥姉ちゃんを守り隊』の大勝利!!」
子供たちがポーズを決める傍で、手錠を掛けられた真は何か言いたげに口をパクパク動かした。しかし、唐辛子入りの水を口にした彼は、のどが焼けるように痛くて声が出ない。
「毛利さん、このまま本庁へ連行します!」
「待て、俺も行く」
小五郎は小鳥の元へ歩き出した。真が呼び止めようと必死で話しかけるが声が出ない。
「もう狙われる心配は無いから大丈夫だ。俺はこのまま警視庁に向かうから、安室くんと楽しんで来い。そんで、記憶が戻ったらまた呼んでくれよ、おじさまってな」
小五郎は笑みを浮かべると、子供たちに声を掛けた。
「探偵団のおかげで助かった。今回は大手柄だったな」
と、礼を言って、高木の元へ戻っていく。
「大手柄だって…!」
「名探偵に…!」
「ほめられちゃいましたよ…!」
小五郎に褒められた子供たちは、天にも昇る心地になった。そしてすぐ遊びモードに切り替わる。友成真が捕まって、誰もが安堵する中、安室と灰原だけが浮かない顔をしていた。
(友成真…ナイフこそ持っていたものの、小鳥に対する殺気を全く感じなかった…本当に彼が犯人なのか?)
(…これで本当に終わったのかしら…?ねえ、工藤君…どうして貴方はここにいないの…?)
その傍にできた人だかりの後ろに、ギターケースとバックを持った小田切敏也の姿があった。小鳥たちの方を見てフッと笑い、屋外ステージのすり鉢状になった客席の階段を下りていく。
近くの柱の陰には仁野環が隠れていた――。
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