偽装工作
日が落ちて辺りが薄暗くなった頃、コナンは東都大学附属病院に来ていた。仁野保について聞きたい事があると外科の看護師二人を捕まえて、中庭のベンチに並んで座る。
「え?ボウヤ、あの有名な名探偵毛利小五郎さんの助手なの?」
コナンがついた嘘を真に受けた看護師たちは目を丸くした。
「うん!」
「ボウヤに協力したら、毛利さんのサイン貰えるかしら?」
「あー!私も!」
「いいよ!」
と、笑顔で引き受けたコナンは心の中で呟いた。
(あんなおっちゃんのサインならいくらでもあげるって)
「仁野先生でしょ?こう言っちゃなんだけど、嫌な先生だったわ」
小五郎のサインを貰えると知って気をよくした看護師たちは、自ら仁野保について語りだした。
「ホント。お金に汚くて、腕は全然。手術ミスで何度も問題になったよね」
「ほら、覚えてる?心臓病で運び込まれた患者さん。あの手術で一緒に執刀した先生の腕を切っちゃって!」
「そうそう!それが原因であの患者さん、助からなかったのよね」
と大げさに怖がって話す看護師たちに、コナンは「えっ」と驚いた。
「その話、もっと詳しく教えて!」
看護師たちに詰め寄るコナンを、中庭に面した病棟の窓から見ているものが居た。それは小田切敏郎だった。窓際に置かれた背丈より大きな観葉植物の陰から、険しい目つきでコナン達を見つめていた。
その頃、警視庁に連行された友成真は、取調べを受けていた。目暮と真が机を挟んで向き合って座り、その周りには高木と小五郎、千葉が立っている。唐辛子入りの水で喉がやられてしまった真は思うように声が出ず、目暮がミネラルウォーターを飲むように勧めると、コップに注がれた水を一気に飲み干した。
「どうだね、喋れるようになったかね?」
コップを机に置いた真は息をつき、うつむいたままゆっくりと口を開いた。
「…男の声で電話があったんです。父親が死んだ真相を教えるって。それで、米花町の交差点に行きました。ですが、男は現れないで…すぐ近くで奈良沢刑事が撃たれたんです。家に戻ると、再び男の声で電話がありました…。今度は緑台のメゾン・パークマンションに来いと…。しかしやはり男は現れず、そのマンションの地下駐車場で射殺された芝刑事が発見されたんです。僕はやっと気が付きました、犯人にはめられたんだと…」
刑事を殺害した犯人は殺害現場に真をおびき出し、真を殺人犯に仕立てようとしたのだ。それにようやく気付いた真は、パトカーや野次馬が集まったマンションの前から逃げるように飛び出した。
「その夜はビジネスホテルに泊まりました。次の日、家の留守電に掛けてみると、佐藤刑事と名乗る女性の声で米花サンプラザホテルに来るようにと指示が入っていたんです。来ないと殺人容疑で逮捕すると…。ところが行ってみると警察の人たちが大勢いて、僕は逃げるように立ち去りました。でも、そこでは佐藤刑事が…」
真は頭を抱えて俯いた。
「どうしてすぐ警察に相談してくれなかったのかね」
目暮が尋ねると、真は頭を上げてキッと睨みつけた。
「信用できなかったんです!父の一件があって!!」
目暮は返す言葉がなかった。父親は警察に殺されたと思っている真が、警察に相談するわけがないのだ。真はいら立ちを抑えるように息を吐き、目暮の背後に立つ小五郎をちらりと見た。
「それで、名探偵の毛利さんに助けてもらおうと思い、周辺をうろついていました」
思いがけない真の言葉に、目暮たちは目を見張った。
「トロピカルランドでは小鳥くんに近づいたんじゃないのか!?」
「はい、毛利さんに声を掛けようと…」
きょとんとする真に、小五郎は「ちょっと待て!」と指さした。
「ナイフ持ってたろ!!」
「護身用です、犯人に命を狙われるかもしれないし…」
「お、おい…じゃあまさか!」
小五郎は呆然とした顔で真を見下ろした。目暮もまさか、と目を見開く。
「犯人は別にいるという事か!」
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