逃避行


夜になって、パレードが始まったトロピカルランドは多くの人で盛り上がっていた。人混みで少し酔った小鳥は安室に手を引かれ、何とか観覧者の中から抜け出す。
「こんなに混むとは想定外でした…」
「金曜日ですからね、学校や仕事を終えた方々がパレードを見るために入園してくるのかもしれませ…」
安室はハッと動きを止める。目の前の小鳥は、手を左胸に当てて深呼吸をしている。その姿が、初めに射殺された奈良沢刑事と重なった。もしかして、と思った時、小鳥の携帯が着信を告げる。
「もしもし?コナンくん?」
『小鳥逃げろ!!!犯人が拳銃でお前を狙ってる!!!』
「え?どう言う事?犯人は友成真さんで…きゃぁ!!」
パシュッとサイレンサーにかき消された音と共に、銃弾が小鳥へと襲い掛かる。一度きつく閉じた瞼を開けると、頬に暖かいものが触れた。それが血液であると気づけば、小鳥は背中を震わせる。
「あむ…ろ、さん…」
「掠っただけです、気にしないで。それより…逃げますよ!」
安室は小鳥の腕を掴み、人混みとは反対の方向へ走り出す。銃弾が掠めた腕から血が滴り舌打ちを零した。
「安室さん、ハンカチ使ってください!」
「…いいのか?」
「血が地面に落ちたら、それを辿って追われちゃうでしょう?」
「フッ、違いない!」
小鳥からハンカチを受け取った安室は、口を器用に使って腕をきつく縛った。パレードルートから外れ、建物が軒を連ねる通りを全速力で走っていると、路地裏からコナンが飛び出してきた。
「コナンくん!」
「二人とも無事でよかった…!安室さん撃たれたの!?」
「大した傷じゃないから大丈夫だ!それより…」
安室が事件について口を開こうとしたとき、短い破裂音と共に、彼らの後ろを歩いていた親子連れの風船が割れた。犯人が銃を撃って来たのだ。
「くそ…小鳥を殺せばだれがどうなっても良いってわけか!!」

路地裏を抜けたコナン達は橋を通り『野生と太古の島』へ来た。ここは島全体に川が流れていて、ジャングルに生息する恐竜を見ながらボートで一周するアトラクションがある。
「助けて!変な人が!」
コナンは走りながら叫び、アトラクション乗り場に向かった。
「ボートに飛び乗れ!」
乗り場に止まっていたボートに飛び乗り、コナンは素早くエンジンを始動させた。スタッフが慌てて止めようとしたときには、既にボートは白波を立てて跳ぶように進んでいく。猛スピードで進んでいくコナンたちのボートは、客を乗せて優雅に進む遊覧ボートを追い越し、カーブもスピードを緩めることなく進んでいく。その巧みなハンドルさばきに、手すりにつかまっていた小鳥は目を丸くした。
「コナン君凄いな…いったいどこで操縦を?」
「ハワイで親父に教わったんだ。ごめんね安室さん、見せ場取っちゃって!」
「君なぁ!」
「ちょ、ちょっと喧嘩してる場合じゃ…きゃあ!」
岩山の向こうからボートに乗って飛び出してきた犯人が、コナン達めがけて銃弾を放つ。その一つが小鳥のリュックに命中し、中に入っていた缶コーラに穴が開いて液体が噴き出す。
「あっ…コーラが!」
小鳥の声を聞いて安室が振り返ると、リュックから噴きこぼれたコーラが目の前を吹き流れていた。
「コーラ…そうだ、イチかバチか…!」
それを見て何か閃いた安室は、そっとコナンへ耳打ちする。
「時間は?」
「20分前だ!!」
「分かった、やってみよう!」
コナンは執拗に追う犯人から逃れるようにスピードを上げ、二手に分かれた川を右側に曲がった。
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