緋色の序章
警察官連続殺人事件から2週間が経過した。空港で両親を見送った小鳥は、帰路につきながら一人頭を悩ませる。
(記憶が戻ったとき、一瞬頭の中に映ったシスターは一体誰なんだろう…)
知っているような、知らないような、そんな違和感に苛まれながら歩いていると、曲がり角から出てきた長身の男性とぶつかり、後ろへ尻もちをつく。
「あいたたた…」
「すみません、お怪我はございませんか?」
声を掛けられ見上げると、立っていたのは茶髪に細目、メガネをかけた男だった。随分と背が高く、安室と同じかそれ以上なのだろうと見て居れば、手が伸ばされた。
「あ、有難うございます…けがは無いです」
「それは良かった。私も前を見て居なかったし、貴女も考え事をしていたのでしょう?過失は50:50ですが転んだ女性を助けないわけにはいきませんから」
「は、はあ…」
変な言い回しをするなぁ、と不思議に思いながらも小鳥は男の手を取り立ち上がった。スカートについた砂を払っていると、男が不思議そうに首をかしげる。
「あの、もしかして桜庭小鳥さんですか?」
「はい、そうですけど…何故私の名前を?どこかで会いましたっけ…」
記憶の中を探るも中々出てこない。小鳥は唸るように考え込んだ。
「以前、強盗犯に江戸川コナンくんが誘拐された事件があったでしょう?あの時、私もその場にいたんですが…」
「あ…あの、赤い車の!でも、新…コナンくんと何か関りが?」
「僕は今工藤新一くんのお宅を間借りしているのですが、コナン君の計らいなんですよ」
「コナンくんの?」
つまりは彼が自分で自分の家へと招き入れた、という事だ。味方として傍に置いているのか、または組織側の人間で監視の為に傍に置いたのかは後ほど問いただそう。
「コナンくんの周りは何かと物騒なので、貴方も気を付けてくださいね」
沖矢昴、と名乗った男と小鳥は笑顔で分かれる。その途中で携帯が降谷からの着信を告げ、彼女は帰路を急いだ。
家について玄関を開けると室内は真っ暗だった。おかしい、降谷からの電話ですでに彼が帰宅していることは知っていた。となれば理由は一つ――
「やっぱり…寝落ちてる」
リビングに入る前の廊下で倒れて眠っている降谷を発見し、小鳥はため息をついた。
「零さん、零さん起きて。廊下で寝たら風邪ひきますよ。寝るならお風呂入ってベッドで寝てください」
「ん…あかい…」
「え?」
身体を揺すって起こそうと試みれば、降谷は魘されるようにそう口にした。
「あかい…どこにいるんだ…」
「ちょ、ちょっと零さん…赤井って誰…え…元カノ…?」
「ん…あれ、小鳥――…もしかして俺寝てた?」
彼の口から出た名前に動揺していると、目を覚ました降谷が身体を起こす。
「…こんなところで寝たら風邪ひきますよ、お風呂沸かしてきますから」
元カノの名前かも知れない…そう思えば、顔を合わせるのが気まずくなり、小鳥は逃げるようにバスルームへと向かった。
その夜――
『なんだよこんな時間に…』
眠たげなコナンの声を聞きながら、小鳥はベッドの上で膝を抱える。
「零さんがね…今日寝ぼけて私の事赤井って呼んだの」
『はぁ!?』
「赤井さんって誰なのかな…零さんの元カノとかだったらどうしよう…」
『え…何でそう思ったんだよ?』
コナンの問に、小鳥は「だって…」と口ごもる。
「『赤井、どこにいるんだ』って…まるで探すような口ぶりだったから…」
『あーーーーーー…』
電話越しにコナンが頭を抱えているのがわかる。どうやら彼も「赤井」と言う人物の事を知っている様だ。
『…詳しくは安室さん本人から聞いた方がいいと思うけど、その人男の人だから安心していいぜ』
「男の人?」
『ああ。でもそれ以上は俺の口からは言えない。…安室さんも、多分嫌だと思うから』
最後の方は声が小さくほぼ聞き取れなかったが、小鳥は「わかった」と返事をする。就寝の挨拶をして電話を切れば、真っ暗な天井を見上げた。
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