過去の亡霊


「――…これが、俺と赤井…そしてスコッチの間にあった事だ」
重苦しい空気の中、降谷は長い話を終えた。小鳥は膝の上で拳を握り俯いている。
「そんな状況で、零さんは赤井さんが生きていると思ってるんですか?」
「思ってる。あいつがそう簡単に死ぬはずはない――ヤツを殺せるのは俺だけだ」
ゆっくり顔を上げると、目の前に真っすぐな瞳をした降谷が居た。彼動かすのは赤井秀一に対する復讐心だ。それが分かった途端、胸が張り裂けそうな程痛くなったのを感じる。
「赤井さんが生きていたとして、どうするんですか?」
「捉えて組織に引き渡す。そして俺は組織の中枢に潜り込む――あの組織を壊滅させれば、小鳥だって安心して暮らせるだろう?…卑怯だと思うか?」
「…卑怯だとは思わない。それも一つの方法だから…。でも、似合わないとは思う」
降谷の瞳を見つめれば、彼は逃げるように目を逸らした。小鳥は一度瞳を閉じ、再び降谷を見る。
「赤井さんを探すことは賛成する。でも…その人を捕まえて利用するのは、私の知ってる零さんじゃないみたいで嫌だな…」
そこまで言えば、小鳥はハッとして「ごめんなさい!」と頭を下げた。
「なんで謝るんだ?」
「だって私…零さんとスコッチさんの関係だって良く知ってるわけじゃ無いのに勝手な事言って…零さんにとっては大切な親友の仇なんですよね?だったらその…零さんがそう思うのも当然って言うか…でも個人的にそれはして欲しくないって言うか…」
「ふは、」
降谷は笑って小鳥へと手を伸ばし、彼女の両頬を包み込んだ。目を合わせれば、今度は小鳥がたじろぐように逸らす。降谷はそのまま彼女の唇へとキスを落とした。啄むようなバードキスを数度繰り返し唇を離せば、小鳥は顔を赤くして降谷を見る。
「…確かにスコッチは、俺の唯一無二の親友だ。でも…今、何より大切なのは小鳥、お前なんだ。お前が悲しむような事を俺はしたくない…」
「赤井さんの事は……どうするんですか?」
「赤井は必ず生きている。何処かに潜んでいるアイツを見つけ出して……あの日の真実を語らせる。分かってるんだ、スコッチは殺されたんじゃなくて自殺だったって。でも、拳銃を渡してそうさせたのは赤井だ。だから、どうしてそんな事をしたのか――俺はそれが知りたい。……なんで泣くんだよ…」
小鳥の瞳から溢れる大粒の涙を、降谷は指で拭う。小鳥は「だって…」と小さく声を漏らした。
「零さんが泣かないから、私が代りに泣いてるんです…」
「そっか、俺の代わりか…ありがとうな」
降谷は、目の前の彼女を抱きしめてそっと頭を撫でた。


翌日、降谷が目を覚ますと隣で寝ていた筈の小鳥の姿はなく、昨夜脱ぎ散らかした服や使用済のティッシュなどは全て片付けられていた。台所からリズムよく包丁を鳴らす音が聞こえ、彼は欠伸をしてベッドから出る。リビングへ向かうと、エプロンを付けた小鳥が鼻歌を歌いながら料理をしていた。
「おはよう、早いな」
「あ、おはようございます零さん!今日は零さんに美味しい朝食で精をつけて貰おうと頑張りました!」
テーブルには既にアジの開きとポテトサラダが並んでいる。降谷は冷蔵庫から緑茶を出しコップを二つテーブルへ置いた。
「…夫婦みたいだな」
「へ?夫婦って…そんな、恥ずかしいですよ…」
「俺はもう、この仕事が終わったら小鳥を嫁に迎えるつもりだけど」
降谷はそう言えば台所へと入り、ご飯を運ぼうとした彼女を抱きしめる。ふくよかな胸を堪能しようとした所で、小鳥から「だめ」とお預けをくらい、残念そうに舌を出した。テーブルに並んだ食事を前に、小鳥と降谷は手を合わせる。
「いただきます」
そう声が重なれば、二人は楽しそうに笑った。

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