秘密の作戦


「ミステリートレイン?それって、園子ちゃんちのベルツリー急行の事ですか?」
降谷の問いかけに、小鳥は首を傾げてそう答えた。鈴木財閥が主催で行う車内推理ショーみたいなもので、全国各地からミステリーファンが集まるらしい。年に1回しか運航しない為チケットは激戦のようだ。しかし何故彼がそんな事を聞くのだろう。
「ああ。組織の仕事でその電車に乗ることになってな…。予定が無かったら一緒にどうだ?」
「え、それって付いて行っても良いんですか?」
「組織には小鳥を探る為俺が探偵の助手として傍に置いてると説明してある。まあ問題ないだろう」
「ど、どうなのかなぁ…」
若干心配はあるが、降谷の表情を見るに断れない。やれやれ、と言うように小鳥は了承した。
「それで、どうしてミステリートレインなんかに乗るんですか?」
「裏切り者のシェリーを始末しろと組織の命令でな。勿論公安で秘密裏に保護する予定だが…どうした小鳥、顔が強張ってるぞ」
「い、意地悪いですよ零さん…私が彼女の事を知ってるって分かってましたね?」
慌てて目を逸らす小鳥だが、降谷は逃がさないとでも言うように彼女の腕を掴んだ。そして思い切り顔を近づける。
「口止めしてるのはそうだな…コナンくん、かな?」
「な、ななな何のことでしょうか」
「嘘が苦手なのは良い事だが…たまには上手につけるようにならないとな」
笑いながら小鳥から離れた降谷の手には見覚えのある携帯が握られていて、彼女は慌ててポケットに手を入れる。その隙に降谷は手際よく電話を掛けた。
『もしもし、小鳥?どうかしたか?』
「やあコナンくん、僕だけど」
『あ、安室さん!?なんで小鳥の携帯に…』
「蘭さんに上手く言って今からこっちに来れないかな?君に聞きたい事があるんだ。組織の研究員…シェリーの事で――…」
バーボンの顔をする彼を見て、小鳥はやれやれと言うようにため息をついた。


「その話、本当?」
「本当だよ、彼女…ベルモットは何としてでもシェリーを始末したいらしい。まあ、今回の件は僕に一任して貰うように何とか頼み込んだよ」
ソファで作戦会議を始める二人を、小鳥は心配そうな顔で見つめる。シェリーは確かに組織の研究員だが、それが望んで入ったものではないと彼女は知っていた。親が組織の一員だったから、組織で生まれた子供だから辿ってしまった数奇な運命だ。その上姉を殺されたとあったら逃げ出したくなるのも当然だろう。
「僕は組織の目があるから公に動けないけど、シェリーを貨物車まで誘導して手榴弾で客席と切り離す。その後公安の仲間が彼女を保護するって感じなんだけど、どう?問題はベルモットが電車に乗ってることを彼女が知ってしまった場合なんだけど…」
「どうするんですか?」
小鳥は新しく淹れた紅茶をテーブルに置きながら首を傾げた。
「シェリーは殺されることを覚悟するはず。でも、コナンくんみたいに幼児化したまま殺されたら子供たちが騒ぐだろう?そうしたら子供たちまで組織に狙われるかもしれない…それを防ぐために彼女は開発中の解毒薬を飲んで一時的に大人の姿に戻ると予想できる」
「そっか、女性の遺体より姿の見えない友達の方を心配するって事か…」
「なあ、コナンくん。シェリー…灰原哀さんは僕が公安の人間だって話していんだよな?」
コナンは「うん」と答える。哀が「安室透」事態を警戒している素振りがあるのは小鳥も知っていた。彼だけではなく、蘭の傍に現れた「世良真純」と言う女子高生や、新一の家に居候する「沖矢昴」の事も同様に警戒している。
「俺が話したのは組織のバーボンがシェリーの捜索に動き出したって事くらいだな。だから多分、その話の後に近くに現れた人間全員と関りを持たないようにしてるんじゃないか?安室さんがバーボンだってのもまだアイツには話して無いしな」
「ねえ、新一くんはなんで零さんがバーボンだってわかったの?」
「聞いたんだよ…元、潜入捜査官にな」
ピリ、と降谷の雰囲気が変わり、小鳥は背中を震わせた。降谷は時々想像もつかないほどの殺気を放つ時がある。それには法則があり、小鳥が知る限り一人の男を表すときだった。
「でも安室さんには教えない。俺が心の底から安室さんを信用出来て、小鳥を任せられると判断するまで教えない」
コナンが悪戯っ子のような笑みを見せれば、降谷の纏った雰囲気が少し柔らかくなる。恐る恐る顔を覗くと、彼は笑っていた。
「なんて子だ…ずるいなぁ…」
「新一くんがずるいなんて今に始まった事じゃ無いです。零さん、頑張りましょうね!シェリーちゃん保護作戦、必ず成功させましょう!」
小鳥は真剣そうに拳を握る。かくして3人の戦いは幕を開けた――。

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