乗客と謎解き


小五郎に挨拶を終えた安室は、乗客の素性を簡単に調べ部屋へ戻って来た。
「まず、安藤諭さん41歳。神経質そうな眼鏡の男性です。鑑定の済んだ純金の額縁に入れられた絵を持って乗車されてます。次に能登泰策さん52歳。彼はだいぶ大柄ですね――。出波茉莉さん33歳。ちょっと狐っぽい顔をした女性です。それから小蓑夏江さん75歳と住友昼花さん37歳。あと、室橋悦人さん39歳。毛利先生と部屋がダブルブッキングしてしまったようですよ。まあ、この電車は鈴木財閥の持ち物ですので毛利先生が優先されるのは当然でしょうけど。今名前を挙げた方々はミステリー通なようで、この電車の終着駅が名古屋であることはご存知でした」
そこまで聞いて小鳥は不思議そうに首をかしげる。
「どうして終着駅が名古屋だって解るんですか?」
「簡単ですよ。今日どの列車に運行時刻の変更があるか調べれば察しはつきます」
「ああ、なるほど…。終着駅までほぼノンストップで走るんでしたよね」
と、その時外で複数の足音がした。安室は警戒してそっとドアを開ける。走って来たのはコナンたちだ。
『ねえ、ここって7号車だよね?』
『レディの部屋に入るときはノックくらいしなさいよ!それに、ここは8号車よ!』
焦ったようなコナンの声に続いて、強気な園子の声が聞こえる。
「変ですねぇ…ここは7号車の筈ですが…」
安室は扉を閉めて首を傾げた。
「あ、もしかして謎解きが始まったんじゃないですか?コナン君たちが探偵役で園子ちゃんたちが犯人役。だから嘘ついてるとかじゃ…?」
「ああ、なるほど。合点がいきますね…成長したんじゃないですか?」
「え!本当ですか?えへへ…」
小鳥は照れ笑いを浮かべる。そんな彼女を、安室はやさしいまなざしで見つめていた。

ベルツリー急行は、山間の線路をひた走っていた。小鳥は部屋の外へ出てぼんやりと外を眺める。重なった山裾の向う側に、遠く、もうもうと黒煙が上がっているのがどの車両からも見えていた。誰かが野焼きでもしているのだろうか。ちょうど目の前にコナンの姿が見えて、小鳥は歩み寄った。
「コナンくん、どうしたの?」
「あ、小鳥のねーちゃん。死体消失のトリックが解けたから車掌さんに答え合わせをしてもらおうと思って」
得意げに笑うコナンは年相応だった。小鳥は微笑みを浮かべて後を付いていく。しかし車掌は
「死体消失のトリックが解けた?ハハ…今回のクイズはまだ出題されてないよ」
と笑うばかりでまともに取り合う様子はない。そもそも、まだ出題されていないとはどういう事なのだろう?コナンは右手に「おめでとう、貴方は探偵役に選ばれました」と書かれたカードを持っている。
「うーん確かにいつもの指示カードと同じようだけど、今回聞かされてたのはそんなトリックじゃ無かったがねぇ…」
車掌の言うことは要領を得ない。こうなったら8号車に行って、被害者役の客に聞いてみるのが速そうだ。コナンたちは8号車に向かい、その男を探すことにした。
「哀ちゃん、どうしたの?」
そわそわと落ち着かない様子の灰原に気付いて小鳥は声を掛ける。
「…この列車、妙な気配がしない?殺気立ってると言うか…」
「え、なにそれ。オリエント急行?パディントン発4時50分?クリスティ小説の読みすぎじゃない?」
「読みすぎなのは貴女の方よ、役立たず」
ごまかすようにとぼけてみれば、呆れたように溜息を吐かれた。

列車がトンネルに入り、車内がにわかに暗くなった。8号車では呼び鈴を受けてA室の扉を車掌が繰り返しノックしていた。
「能登様…何か御用ですか?能登様!能登様?」
何度目かのノックで、不機嫌そうな能登がようやく顔を出した。
「なんだね一体!?私は呼んじゃいないよ!」
「あ、でも今ベルが…」
「知らんよ!まったく…呼んでも来ないのに余計な時には来るんだな…」
能登がうんざりしたように呟く。すると能登の隣のB室のドアが開き、周囲の様子を窺うように室橋が顔をだした。誰かと電話をしているらしい。
「…ああ、大丈夫です。隣の部屋で何かトラブってるけど、車掌の勘違いだったようで…」
どうやら能登の様子が気になって部屋から出てきたようだ。室橋が部屋の中へ戻ると、能登も乱暴に扉を閉めた。
*前次#

top