黒ずくめの男
「お客様にご連絡します…。先程車内で事故が発生した為、当列車は予定を変更して最寄りの駅で停車することを検討中でございます……。お客様には大変ご迷惑をおかけしますが…停車しましてもこちらの指示があるまで各自部屋の中で待機し、外に出る事は極力避けられますようお願い致します…。なお、予定していた推理クイズは中止とさせて頂きます……。」
車内アナウンスを聞きながら、灰原はざわざわと落ち着かない感覚に駆られていた。余計なことはするなと声を荒らげたコナンの態度も気にかかる。
(嫌な感じ……さっきからずっと続いてる…。それに彼のあの態度…なんなのよ一体!?)
灰原は不安からか、小五郎に電話をかけている蘭の服の裾をずっと掴んでいる。その時、黒ずくめの大柄な男が、前から歩いてきてすれ違った。ハットの陰から、ぎらついた目が灰原を見下ろした。その目の下にはくっきりとした隈がある。
(え……?)
ドックン!と灰原の心臓が跳ね上がる。
「あれ?」
隈の男のあとからやってきた男に目を止め、蘭が声をかけた。
「安室さん!小鳥と一緒じゃないんですか?」
「蘭さん!僕、毛利先生と食堂車にいて…彼女から事件があったと聞いたので今から向かうところです」
姿を見せた安室は、爽やかに頷いた。
「お父さんはもう向かったみたいですけど…」
「ですね、走っていかれましたし…先生に任せてもいいかとは思うんですが、小鳥さんが心配で」
蘭たちと話す安室透の姿を、小さく開いたドアの隙間からじっと見つめる人物がいた。沖矢昴だ。ドアを閉めると、部屋の中にいる女性に声をかける。
「どうやら天は我々に味方しているようですね……」
女性は足を組んで携帯をそうさしながら、沖矢の言葉に微笑で答えた。
死人が出たというのに、ベルツリー急行は近くの駅には停車せず、名古屋まで直行する事となった。列車のオーナーである鈴木次郎吉相談役が、『儂の列車の中で人を殺めた不届き者は儂の目の前でお縄にせよ』と、名古屋駅で待ち構えているためらしい。
(どんだけ力持ってるんだよ、あのジイさん…)
理由を聞いたコナンは呆れ返ったが、ともかくベルツリー急行は室橋の遺体と犯人を乗せたまま走り続けることになった。食堂車から蘭に呼ばれてやってきた小五郎が、世良とコナンに合流し、まずは遺体の見つかった8号車車掌の話を聞くことにする。車掌によると、彼が被害者の室橋を最後に見たのは、車掌を呼ぶ呼び鈴の音がした時だという。車掌はA室に向かったが、出てきた能登に「私は呼んでいない」と、叱られてしまった。その時、隣のB室の扉の陰から室橋がこちらをチラチラと見ているのが目に入ったと言う。室橋は誰かと電話をしていたようだ、との事だった。コナンたちは、能登泰策がいる8号車A室に向かい、話を聞いた。
「ああ…私もその時扉越しに室橋さんの声は聞いたよ」
能登も部屋から出てきた室橋に気がついていたようだ。
「まさか彼が隣の部屋にいるとは思わなくて驚いたがね…」
「しかし、何で呼び鈴を鳴らしたのに呼んでないと嘘を?」
小五郎に問われ、能登は心外そうに声を荒らげた。
「だから、私は呼んでないのに勝手に車掌がやってきたんだよ!!」
「でもさ、呼び鈴鳴らしたら上のランプがつくはずだから間違えないと思うけど…」
コナンの指摘に車掌がおずおずと弁解する。
「じ、実はこのA室のランプだけ電球が切れてて…だから呼び鈴が鳴ってるのにどの部屋もランプがついてなかったからてっきり能登様の部屋だと思ってノックしたんだけど…」
「んで?その後は?」
小五郎が車掌の行動の先を促す。
「A室とB室の扉が閉まったすぐあとに呼び鈴が鳴り…出波様のE室のランプがついていたので行ってみましたけど…」
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