あの人と似てる、色
「ここのお店、ドラマの撮影で使われた場所なんだって!」
「へえ……」
「何その反応!予約取るだけでも大変だったんだから!」
休日、友人が予約を取ってくれたカフェに来ていた。
おしゃれなベージュのソファにくすんだ赤色や青色のクッションがセンス良く配置されて、正しく”都会的なカフェ”という感じだ。
メニューもおしゃれな横文字が並ぶものばかりで、なんだか私は気後れしていた。
周りも着飾っているような若い人達ばかりで、うちのお店に来るような常連さんは1人もいない。
店内のBGMをかき消すように黄色い声が漂っている。
「未来って本当こういうのに無頓着だよね。どうせドラマも知らないんでしょ?」
「うん。見てない」
「潔い回答すぎてびっくりだわ」
友人はスマートフォンをいじり、私の目の前に差し出した。
スーツ姿の凛々しいまなざしがこちらを覗いている。
「Re:valeの千が出たドラマ!千がちょうどこの席辺りに座ってたんだよ!」
「へえ……」
「覚えて!Re:vale知らないとかやばいから!百と千!2人ぐらい覚えられるでしょ!」
「2人ぐらい……」
友人がスワイプすると次々にその”百”と”千”という人物の画像が現れた。
ドラマ、バラエティ番組、音楽番組――……何度スワイプしても1枚たりとも同じ画が現れない。
有名人に疎い私にもRe:valeは相当売れているということが伝わってきた。
「Re:valeのファンですか?」
トレイを持った店員が私たちの様子を見ていたのか、ナチュラルに会話に溶け込んできた。
友人は嬉しそうにそんな店員を迎え入れてる。
「はい!千が特に好きなんです!」
「すごくカッコいいですもんね。ミステリアスな雰囲気がまた魅力的というか」
「そう!そうなんです!」
興奮する友人を横目で見ながら店員さんは鮮やかに盛り付けられたランチプレートをテーブルに並べ、穏やかな微笑みで私を捉えた。
「千さん、撮影でここのテーブルを使ったんですよ。ちょうどあなたの席に座って」
「ええ!?」
店員さんは爆弾的な置き土産を残して去って行く。
目の前の友人は獲物狩るような目つきで私を見た。思わず本能的に身が強張った。
そのぐらい本気の目つきだった。
「未来!!変わって!!!」
「別にいいけど……もう何人もここの席に座ってるんじゃ……」
「違うの!そこの席に千がいたって事が大事なの!!」
「はあ……」
荷物を持ち互いの場所をトレードすると友人は満足そうに顔を綻ばせた。
「幸せ」
口にはしないがそう顔に書いてある。
「必死に予約を取った甲斐があった……これでしばらく生きていける……」
「よかったね」
「未来!付き合ってくれたお礼!今日は私がおごるよー!」
ありがとう千さん。
あなたのおかげで私の数少ないお小遣いは減らずに済みました。
画面越しにこちらを微笑む千さんに心の中でお礼を言う。
友人は嬉しそうにソースのかかったルッコラを頬張った。
「未来?どうしたの?」
「……ううん、なんでも」
不思議そうにこちらを見る友人にスマートフォンを手渡す。
フォークを持ち直し友人と同じルッコラのサラダを口へと運んだ。
友人は満面の笑みで画面をのぞき込む。
「TRIGGERもいいよね!Re:valeが可愛がってるみたいだし!」
また知らない名前。
友人はスマートフォンを私へと向ける。
「ほら。この千の隣に映っているのがTRIGGERだよ!」
千さんの隣を友人が指さす。
モノトーンでまとめられたシックな衣装を纏った男の人たちがいた。
確かにこの人、よく街角の広告とかでも見る気がする。
「八乙女楽って言うの!知ってる?……わけないか」
私は肯いた。
友人は少しだけ残念そうに眉を下げ、カッコいいのになあとぽつりと漏らす。
メインディッシュのチキンへフォークを移動させると、少しだけ胸が疼いた。
(あの人と似てる、色)
“八乙女楽”ではない。
その奥に見切れて映っている髪色が私の脳内をぐるぐると回っていた。
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